家具・インテリア業界のEC市場は、オンラインショッピングが主流になったことに加えて、拡張現実(AR)技術の発展により、大きな成長を遂げています。
家具などの大型商品は、ラインナップを揃えるには十分な広さの売り場を確保する必要があります。ECサイトで商品を掲載・販売することで、売り場や在庫管理の問題を解決できます。また、販売商品を複数使ったコーディネートを提案できるメリットもあり、家具販売はEC事業と相性が良いといえるでしょう。
この記事では、家具の仕入れからネットショップの立ち上げ、販売までの流れをステップごとに解説するとともに、成功事例についても紹介していきます。家具のEC販売を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
家具をEC販売する12のステップ

1. ビジネスモデルを決める
家具のEC販売をするには、まずビジネスモデルを選択する必要があります。どのビジネスモデルにするかを決める際、自身の持つスキルや予算、在庫の保管場所の有無など、さまざまな要因を考慮して総合的に判断する必要があります。
家具のEC販売では、次の3つのビジネスモデルがあります。
2. 扱う商品の方向性を決定する
ビジネスモデルが決まったら、扱う商品の方向性や詳細を決定します。次の項目を明確にしておきましょう。例も紹介しているので参考にしてください。
- カテゴリーや用途:オフィス家具、アウトドアリビング、ホームアクセント
- 商品:ソファベッド、ダイニングテーブル、デスク
- スタイル:ナチュラル、アジアン、北欧、和モダン
- ニッチ:スマート家具、モジュール式家具、リサイクル素材を使用した家具
- 生産の特徴:フェアトレード、国内製造、サステナブル
- 価格:低価格で大量生産、高級路線のオーダーメイド
取り扱う商品を決める際は、まずターゲット層を決定しましょう。どんなユーザーに、どんな価値を届けたいかを明確にすることで、製作・販売したい商品が見えてきます。また、Googleトレンドなどのツールを使ってニーズ調査や市場分析をすると、売れる商品かどうかを見極めることができるでしょう。
3. 仕入れ方法を選択する
次に、仕入れ方法を選択します。家具をEC販売する場合の主な仕入れ方法は以下のとおりです。
自社製造を行う
家具を自作できる人や、技術者を雇うことができる人は、自社工房での家具の設計・製作が可能です。商品を製作・保管し販売するか、受注生産モデルを採用するかを選択できます。顧客が特定のサイズや機能をリクエストできるカスタムサービスを提供することもできるでしょう。自社製造で販売する場合は、専門的なスキルや特殊な工具、専用の工房スペースが必要です。なお、家具の製造や販売に特別な許可は原則必要ありません。
メーカーに製造を依頼する
自社で設計やデザインを行い、メーカーに製造を依頼する方法もあります。メーカーとの円滑なコミュニケーションを図るためには、専門的な製図スキルと、材料や構造に関する理解が必要になる場合があります。
既存品をメーカーや卸売業者から仕入れる
仕入れサイトやメーカー、卸売業者などから既存品を仕入れて転売します。自社製造を行っていない場合でも、ECサイトのコンセプトに合わせて統一感のある品揃えを意識することで、ブランディングもしやすくなるでしょう。仕入れ方法のうち、最も手軽なのは次のようなサプライヤーサイトを使うことです。
- NETSEA(ネッシー):多くのメーカーや問屋が出店している卸売りECサイトで、幅広いカテゴリの商品を取り扱っています。
- orosy(オロシー):Shopify(ショッピファイ)と連携できる卸売りサイトで、スマホアプリもあるので簡単に仕入れ先を探せます。
- Alibaba(アリババ):中国のBtoB向けECサイトで、サイト上でサプライヤーと直接交渉することも可能です。
これらのプラットフォームは、家具業界のトレンドを把握するのにも活用できます。
ドロップシッピングを利用する
家具のEC販売をするには、ドロップシッピングも便利です。ドロップシッピングは、商品の注文が入ったらサプライヤーが顧客に直接商品を発送してくれる仕組みです。そのため、無在庫販売が可能であり、自社で商品の保管場所を確保できない場合にもEC販売を行えます。ドロップシッピングでは、大量購入による割引を受けられないものの、商品の保管場所の確保や在庫確保のための初期投資を抑えられる利点があります。
4. ビジネスプランを作成する
事業に関する情報をまとめたビジネスプランを作成し、オンライン販売に向けた準備を行います。ビジネスプランは事業の進捗確認に役立つほか、資金調達が必要な際にも活用できるので、事業開始前に作成しておくことをおすすめします。
ビジネスプランには次のような項目を記載しましょう。
- エグゼクティブサマリー(事業概要)
- 企業情報
- 市場調査の結果
- 取り扱い商品やサービス内容
- 販売ターゲット
- 仕入れ方法
- 販売戦略やマーケティング戦略
- 財務計画
財務計画には、売上や利益予測、予算などを記載します。予算の目安は、どのようなビジネスモデルや仕入れ方法を選択したかで異なります。たとえば、自社製造の場合は製造場所にかかるコストのほか、機材、倉庫、光熱費、安全装置なども見積もって記載しておく必要があります。
5. ブランディングする
商品やウェブサイト、さらにはマーケティングにいたるまで、ブランドの世界観を一貫して反映するには、ブランド構築が不可欠です。次のようなポイントを決めておきましょう。
ブランドアイデンティティを明確に定めたら、それらをまとめてブランドガイドラインを作成しておくこともおすすめです。一貫したブランド運営に役立てることができます。ブランドの想いを顧客に効果的に伝えることができれば、ブランドロイヤルティの向上や収益増加を図れます。
6. 資金を調達する
事業の規模に合わせた資金調達を行います。具体的には以下の方法があります。
- 自己資金:ブートストラップとも呼ばれ、個人資金や個人所有のパソコン、自宅のスペースなどの既存のものを活用して企業を立ち上げます。
- 友人や家族からの資金調達:起業したばかりで銀行などの融資が受けにくい場合、友人や家族から資金を集めることも検討しましょう。
- 政策金融公庫:日本政府金融公庫は国が出資する金融機関で、中小企業や小規模事業者を中心に融資しています。中でも創業融資は、無担保・無保証で利用できるというメリットがあります。
- 助成金:国や地方自治体が提供している、返済不要の資金です。
- 銀行の融資:銀行による事業者向けのローンです。まとまった資金が必要な際や、事業拡大に活用されます。
- エンジェル投資家:個人投資家のことで、起業経験があったり、個人資産に余裕があったりする人が出資をする仕組みです。資金面だけでなく、経営に関するアドバイスをもらえたり、人脈作りにも協力してもらえたりする場合があります。
- クラウドファンディング:不特定多数の支援者から少額ずつ集めるクラウドファンディングは、銀行などから融資が受けられなかった場合にも活用できます。「All-or-Nothing方式」の場合は、集まった金額が目標額に届かないとお金を受け取ることができません。
7. 開業の手続きを行う
事業を開始する準備が整ったら、開業の手続きを行います。開業の形態は以下のとおりです。
- 個人事業主:副業として家具のEC販売を始める場合や、小規模でスタートさせる際に適しています。
- 株式会社:会社の形態として最も一般的です。株式を発行し、集めたお金で会社を経営します。
- 合同会社:出資者が会社の経営者となる形態で、意思決定が迅速にできる、経営の自由度が高いといったメリットがあります。
- 合資会社:出資者である有限責任社員と、事業を行う無限責任社員の2名以上で構成されます。
- 合名会社:出資者が無限責任社員となる会社形態で、社員全員が業務執行権と代表権を有します。
開業手続きの方法はビジネス形態により異なり、さまざまな書類を準備しなければならないため、事業開始日が決まっている場合は早めに手続きを進めると良いでしょう。別途費用はかかりますが、これらの手続きを税理士などの専門家に依頼すると、開業負担を減らすことができます。
8. 家具を製作・調達する
自社生産の場合は家具の製作を、それ以外の場合は商品を調達する必要があります。
メーカーに製作を依頼する場合は、信頼できるメーカーを見つけることが重要になります。メーカーを決めたら、希望の商品に仕上がるよう綿密な打ち合わせを実施します。
卸売業者から商品を仕入れたり、ドロップシッピングでビジネスを運営したりする場合、まず取引するサプライヤーを決めます。Alibabaなどの卸売マーケットプレイスも活用できるでしょう。サプライヤーと密な関係を築くことで、商品価格の交渉が可能になったり、高品質な商品を卸してもらえたりすることもあります。トレンド情報を入手するためにも、良好な関係作りが重要です。
9. 在庫の保管場所を確保する
ドロップシッピングや受注生産を行わない場合には、在庫の保管場所の確保が必要です。開業直後はガレージや使用していない部屋を保管場所として使用することも可能ですが、ビジネスの成長とともに拡大することを視野に入れなければならないでしょう。
家具の保管場所として、次のようなアイデアが考えられます。
- 自宅の空きスペースを使う
- 倉庫を借りる
- 3PLと提携し、保管場所の確保だけでなく配送や注文処理も依頼する
商品の保管場所を決めるには、保管環境も考慮する必要があります。天然木を切り出した無垢材や、複数の板を組み合わせた集成材で製作された家具は、湿度や害虫の影響を受けやすい傾向があります。そのため、可能であれば一定の湿度や温度に保てる保管環境を確保しましょう。
10. 家具のECストアを立ち上げる
売れるECサイトのデザインやECサイトの作り方などを参考にしながら、ネットショップを立ち上げ、商品販売をスタートしましょう。ストアに設置するページと気をつけるべきポイントは以下のとおりです。
トップページ
消費者が最初に訪れる可能性の高いトップページは、特にファーストビューと呼ばれるページ上部にこだわると良いでしょう。最初に目にした画像や文章が魅力的でないと、サイト訪問者はそのサイトの閲覧を辞めてしまい、商品を紹介することができなくなります。そのため、メインビジュアルには高画質の画像を使う、ユーザー目線のキャッチコピーを考えるなど、自社の魅力が伝わるファーストビューになるよう心がけましょう。
商品ページ
売れる商品紹介ページが作成できるよう、次のポイントを押さえましょう。
- 商品情報をわかりやすく掲載する
- ターゲット層に合わせたデザインを採用する
- デザインに統一感を持たせる
- 口コミやレビューを掲載する
- クオリティの高い商品画像や動画を挿入する
中でも商品画像は、消費者が購入するかどうかを決定づける重要な要素となるため、以下の点に気をつけながら撮影をすると良いでしょう。
- サイズ感がわかるよう工夫する:説明文に詳細な寸法を記載するだけでなく、画像からもサイズ感がわかるよう、一般的なサイズのインテリアアイテムの横に商品を配置して撮影します。
- 細部がわかるようアップ画像も用意する:実際に触ることができないECサイトでは、手触りや細かいデザインが見て取れるよう、細部がわかる画像を用意する必要があります。商品の質感や木目の特徴などがわかるような撮影を心がけましょう。
- 十分な明るさで撮影する:照明や自然光を使って十分な明るさを確保すると、家具の質感や色を正確に伝えやすくなります。
- 使用シーンがわかる画像を用意する:商品を部屋に置いた時のイメージが伝わるよう、使用シーンの一例となる画像を用意します。
Aboutページ
Aboutページには、ブランドストーリーや創業の理由、ビジョン、創業者・社員の紹介などブランドや企業に関する情報をわかりやすく記載します。ブランドならではの想いを伝え、消費者の共感を生み出す役割があるため、文章だけでなく画像やグラフ、表などを使って視覚的にもわかりやすいよう工夫すると良いでしょう。
返品ポリシー
ECでの家具販売は、「イメージと違った」といった返品トラブルが発生する可能性があるため、消費者が見つけやすい場所に返品ポリシーを用意しておくのも重要です。返品ポリシーは、ECサイト側の利益を守るための取り決めですが、消費者が安心して購入するための後押しとなることもあります。
FAQ(よくある質問)
FAQは、初めて家具をオンラインで購入する人や購入に不安を抱えている人の参考になります。特に配送と返品に関する情報を求めている顧客は多いため、ユーザーが必要とするであろう情報を十分に記載しましょう。
Shopifyなら、デザインスキルやウェブサイト構築の経験がなくても、簡単に質の高いECサイトを立ち上げることができます。さらに、ドロップシッピングで家具を販売する場合は、専用アプリをダウンロードして連携させることで、簡単に商品をネットショップに掲載できます。無料・有料のテーマが豊富にあるため、自社ブランドのイメージに合うテーマを見つけ、カスタマイズしましょう。カスタマイズ商品を提案する場合には、SC Product OptionsのShopifyアプリも役立ちます。
11. 販売チャネルを増やす
家具のECサイトの運営に慣れたら、販売チャネルを増やして、知名度アップや売上の向上を目指しましょう。販路拡大には、次のような施策が効果的です。
- 卸売販売:自社製造やデザイナーとしてメーカーに依頼して商品を製造している場合、商品を卸売販売することで販路拡大を目指せます。
- ポップアップストア:期間限定で店舗販売を行うポップアップストアは、認知度の向上や新規顧客の獲得につながります。
- SNS上での販売:Facebook(フェイスブック)ショップ、インスタのショップ機能、TikTok Shop(ティックトックショップ)などを使って販売チャネルを増やします。
12. マーケティング戦略を実施する
ターゲット層や販売チャネルに合わせて立案したマーケティング戦略を、計画的に実行しましょう。主なマーケティング戦略は以下のとおりです。
- デジタルマーケティング:ウェブサイトやSNS、検索エンジンなどのオンラインツールに特化したマーケティング戦略です。
- SNSマーケティング:SNSを使ってユーザーと交流を図ったり、顧客を獲得したりします。
- コンテンツマーケティング:ブログやメルマガ、動画などを使って消費者に有益情報を発信し、信頼関係を築きます。
- メールマーケティング:メールを使って商品やサービスの情報を顧客に届ける手法です。
- 口コミマーケティング:消費者の口コミを活用して、集客や認知度の拡大、商品購入の促進を図ります。
- オフラインマーケティング:チラシやハガキ、野外広告、ラジオ広告などデジタル機器を介さない手法です。
ウェブ広告やSNS広告を活用したマーケティングを行う際には、宣伝している商品のランディングページを作成し、コンバージョン率の向上につなげましょう。
家具のEC販売の将来性

家具販売はEC化拡大の動きを見せており、今後も成長を続けると見られています。令和6年度電子商取引に関する市場調査によると、「生活雑貨、家具、インテリア」分野における市場規模は2兆5616億円にのぼります。さらに、この分野におけるEC化率は32.58%と大きな伸びを見せています。
その背景には、ショッピング全体のオンライン化に加えて、家具販売とECサイトの相性の良さも起因していると考えられます。大型商品が多い家具は、商品が倉庫に保管されているため後日配送になるケースが多く、「その場ですぐに商品を入手できる」という店頭販売のメリットがありません。また、オンラインなら商品価格を比較できるメリットもあり、利便性の面から、ECサイトで家具を購入する人が増加していると分析できるでしょう。
現在、ARをECサイトに取り入れる企業が増えたことにより、家具を自宅に実物大で配置して、サイズは最適か、既存のインテリアと合うかといった点をシミュレーションできるようになりました。買い替えの少ない大型家具のオンライン購入に対する不安が軽減した点も、家具販売のEC化が進んでいる要因と考えられます。
Markets and Markets(英語)によると、ARを使った小売業市場規模は、2028年には116億米ドルに達する見通しであり、家具のEC販売にとってARは欠かせない存在になると予想されます。
家具のEC販売の成功事例
Armonia(アルモニア)

ブランド家具を扱うArmoniaは、ショールームのほかにECサイトも展開しています。ネットショップでは、商品カテゴリやランキングで商品がまとめられていたり、ピクトグラムが使われていたりと、視覚的にわかりやすい工夫がされています。また、ARを使って家具を試し置きができるだけでなく、インテリアコーディネートの画像も豊富で、消費者が購入の参考にしやすい仕組みが出来上がっています。
LOWYA(ロウヤ)

豊富な品揃えで消費者を惹きつけるLOWYAは、家具・インテリアを販売するECサイトです。SEO対策やSNSマーケティングを行い集客力の向上に成功しているほか、商品の企画から販売まで自社で一貫して行うことで、高いコストパフォーマンスを実現しています。サイトにはシンプルでわかりやすいデザインが採用されているだけでなく、家具・インテリアに関する記事や特集も掲載されており、サイト訪問者により長く滞在してもらうための工夫がされています。
大川家具ドットコム通販

大川家具ドットコム通販は、国産家具だけを取り扱う通販サイトです。自然素材や低ホルムアルデヒド素材を扱うなど、安心・安全にこだわった家具づくりが、ファミリー層の獲得につながっています。また、サイズオーダーができる家具を数多く販売しているほか、配送だけでなく設置も行うことで競合他社との差別化に成功しています。
まとめ
家具をEC販売するには、自社製造のほかにも、リセラーとして商品を販売したり、ドロップシッピングで販売したりする方法があります。ビジネスモデルや扱う商品の方向性、仕入れ方法を決定したら、ビジネスプランを立てましょう。その後、ブランディングやマーケティング戦略、複数の販売チャネルの確保にも注力していくことで、家具のEC販売を成功に導くことができます。
家具のオンライン購入を促進するには、ARの活用も効果的です。Shopifyの無料ツール「size.link」を使えば、自宅や身の回りのスペースに商品を置いた際のイメージ画像をスマホのカメラだけで簡単に取得できます。ARを活用したShopifyストアも数多くあるのでぜひ参考にしてください。
家具のEC販売に関するよくある質問
家具のEC販売は個人事業主でもできる?
個人事業主、法人ともに家具のEC販売は可能です。個人事業主は、副業やスモールビジネスとして運営するのに適したビジネス形態です。
家具のEC販売の市場規模は?
令和6年度電子商取引に関する市場調査によると、「生活雑貨、家具、インテリア」分野の市場規模は2兆5616億円です。前年比3.62%増、EC化率32.58%を記録しており、今後も成長が期待できるでしょう。
家具のEC販売の始め方は?
- ビジネスモデルを決める
- 扱う商品の方向性を決定する
- 仕入れ方法を選択する
- ビジネスプランを作成する
- ブランディングする
- 資金を調達する
- 開業の手続きを行う
- 家具を製作・調達する
- 在庫の保管場所を確保する
- 家具のECストアを立ち上げる
- 販売チャネルを増やす
- マーケティング戦略を実施する
文:Masumi Murakami





