チャージバックとは、購入者が不正利用などの被害を理由にクレジットカード会社に決済の取り消しを申し立てる仕組みです。異議申し立てが受理された場合、商品の配送状況などにかかわらず売り上げを返還しなくてはならないため、EC事業において大きな損害となります。カード情報だけで購入できるECサイトでは、持続的な事業を運営するためにも、こうしたリスクを回避する対策を講じる必要があります。
この記事では、チャージバックの仕組みや発生理由、発生時の対応手順を解説し、EC事業者が被害を抑えるための対策を紹介します。Shopifyストアで利用できるチャージバック対策機能についても触れているので、ぜひ参考にしてください。
チャージバックとは

チャージバックとは、顧客がクレジットカードの利用内容に異議を申し立てた際、カード発行会社が審査のうえ決済を取り消し、顧客へ返金する仕組みを指します。
チャージバックが発生した場合、売上代金は一時的に保留され、最終判断はカード発行会社により下されます。審査の結果、事業者側の落ち度と判断されれば売り上げは取り消され、顧客に返金が行われます。さらに、事業者にはチャージバック調査手数料が請求される場合があります。
EC事業では、商品発送後にチャージバックが発生した場合、売り上げが喪失したうえに発送済み商品のコストも損失となる可能性があります。こうした二重の損失を防ぐためにも、チャージバック対策を講じることは不可欠です。
チャージバックの流れ

チャージバックは、カード保有者(顧客)、加盟店(EC事業者)、カード発行会社、カードブランド(VISA、Master Card、JCB、American Expressなど)が関わる国際的な標準プロセスです。決済代行サービスを利用している場合でも基本的な流れは同じですが、代行会社が加盟店に代わって実務を処理することがあります。
チャージバックの基本的な流れは以下のとおりです。
1. カード保有者が異議を申し立てる
顧客が明細を確認した際、「身に覚えがない」「商品が届かない」「不正利用の疑いがある」などの理由で、カード発行会社に取引への異議を申し立てることから始まります。申し立て方法は、各発行会社が提供する電話番号やWeb会員ページなどから問い合わせるのが一般的です。この段階では、まだ加盟店の過失が確定したわけではありません。
2. 加盟店の売り上げが一時的に差し引かれる/保留される
カード発行会社が異議を受理すると、加盟店の売上金は一時的に差し引かれる、または保留されます。 これは顧客資金を保護したうえで審査を行うための暫定措置であり、カードブランドの加盟店規約に基づく一般的な運用です。決済代行サービスを利用している場合は、代行会社の口座から同様の処理が行われますが、最終的に負担を負うのは加盟店です。Shopifyでチャージバックが発生した場合、この段階でチャージバック手数料が徴収されます。
3. 加盟店がチャージバックの正当性を判断する
チャージバックが通知された場合、加盟店はチャージバックが正当であるかどうかを判断します。チャージバックを受け入れると、商品代金が顧客に返金されチャージバック処理が完了します。
反証する場合は取引が正当であったことを示す証拠を提出します。代表的な証拠には、注文情報、発送記録、顧客との通信履歴、返品・返金ポリシーなどがあります。提出期限はカードブランド、発行会社、チャージバック理由により異なります。
なお、Shopifyペイメントを使用している場合、証拠は自動的に収集されクレジットカード会社に送信されるほか、管理画面から追加証拠を提出できます。
4. 発行会社・カードブランドが審査を行い最終判断を下す
発行会社やカードブランドは、提出された証拠を基に最終判断を下します。Shopifyでは審査完了までに最大75日間かかることがあります。
配送完了が明確に示されているなど、加盟店側の証拠が強い場合には、顧客が異議を続けたとしても加盟店に有利な判断が下され、差し引かれた金額が返還されます。顧客に有利な判断の場合、売り上げは取り消され、チャージバック手数料は返金されません。双方が結果に納得しない場合は、カードブランドによる仲裁が行われ、ここでの判断が最終決定となります。
チャージバックが発生する理由

クレジットカードの不正利用
チャージバックの発生要因として一番多く挙げられるのが、クレジットカードの不正利用です。顧客のクレジットカード情報が漏れ、第三者に利用されることで発生します。情報漏えいの主な原因は次のとおりです。
- フィッシング詐欺やスキミング
- クレジットマスターの被害
- クレジットカードの紛失や盗難
クレジットマスターとは、クレジットカード番号の規則性を悪用し、他人のカード番号を割り出す手口を指します。スキミングやフィッシング詐欺は個人で対策することが可能なのに対し、クレジットマスターはクレジットカードの仕組みを使った不正利用なため、消費者側が対策を講じるのは難しいでしょう。そのため、bot対策や本人認証サービスの導入など、EC事業者側でのセキュリティ対策が求められます。
商品・サービスの不備
商品やサービスの状態に不満がある場合や、商品が届かなかったときにも、チャージバックが発生します。販売側に問題があるケースだけでなく、利用者の誤認や説明の読み落としが背景にある場合もあります。主な理由は以下のとおりです。
- 商品が届かない(配送事故・住所不備など)
- 欠陥品、破損品、商品説明と大きく異なる商品が届いた
- サービス内容が期待と異なる、または十分に提供されなかった
- サブスクリプションの解約が反映されていない
品質に関するトラブルは、配送記録の確保、商品説明の明確化、返金ポリシーの整備などで減らすことができます。
事務的要因
チャージバックは、請求や返金の誤り、処理の遅れなど、運用上の問題でも発生します。主な理由は以下のとおりです。
- 二重請求が発生した
- 返金処理が行われていない、または反映に時間がかかった
- 誤った金額で請求してしまった
これらの事務的要因は、明細に表示されるショップ名の統一や返金処理の迅速化を図ることで防ぐことができます。
また、不正や品質不備、事務的要因以外にも、利用者の記憶違いや確認不足が原因でチャージバックが発生することもあります。
チャージバックに異議申し立てする方法

チャージバックの通知を受けたとき、EC事業者は、迅速かつ正確に対応することが重要です。ここでは、EC事業者が押さえるべき流れを3つのステップに整理して紹介します。
1. 取引内容を確認し証拠を収集する
まず、チャージバック通知に記載されている「対象取引・理由・期限」を確認し、該当する注文情報をすべて洗い出します。ECでは次のような証拠を体系的に揃えることが求められます。
- 注文情報(日時、購入商品、金額、IPアドレスなど)
- 配送状況(追跡番号、配達完了証明、受領記録)
- 顧客とのやり取り(メール、チャット、問い合わせ履歴)
- サイトの利用規約・返品ポリシー
- 3Dセキュア認証結果
配送完了が確認できる場合や、顧客が商品を受領した記録がある場合は、異議申し立ての根拠として特に有効です。また、必要に応じて顧客に直接連絡することにより、誤解や確認不足による異議申し立てであれば、事前に解決できることもあります。
2. 異議申し立てを準備し提出する
収集した証拠を整理し、チャージバックに反論する理由を説明します。EC事業の場合、決済代行会社を経由してカード発行会社に伝達されることが多く、この場合は決済代行会社が指定する形式や提出方法を厳守します。証拠提出時のポイントは以下のとおりです。
- 提出期限を必ず守る
- チャージバックの理由に沿って必要な証拠を提示する
- 証拠は論点ごとに整理し、順序立てて説明する
- 感情的な記述を避け、事実関係に絞る
特に「不正利用」「購入者の覚えがない」などの理由の場合、以下の証拠が有効です。
- 本人認証のログ
- 配送完了の証拠
- 注文直後の顧客とのコミュニケーション記録
異議申し立てを提出した後も、追加資料の依頼が来る場合があるため、期間中は速やかに対応できる体制を整えておきましょう。審査はカード発行会社が行い、必要に応じて国際ブランドが最終判断を下します。異議申し立てが認められれば売上金が加盟店に返還されますが、認められない場合はチャージバック手数料を含む損失が確定します。
3. 運営上の改善点を探る
安定した収益を確保するには、チャージバックを発生させないことが大切です。チャージバックが繰り返し発生している場合は、次のようなポイントについて、ショップ運営側で改善できる点がないかを確認してみましょう。
- サイトの案内は丁寧かつ十分か
- 注文フローにわかりにくさがないか
- 不正対策(3Dセキュア等)が十分か
チャージバックから店舗を守る3つの方法

チャージバックは完全に避けることはできませんが、事前の工夫や運用の見直しによって大幅に減らすことができます。ここでは、EC運営で効果が高い3つの対策を、Shopifyで利用できる機能とともに紹介します。
1. 請求や取引記録を正確に管理する
二重請求や金額の誤り、配送記録の不足といった事務的なミスは、チャージバックのよくある原因です。注文から発送までの情報を自動的に記録し、次のような証拠をいつでも提示できる状態にしておくと、万が一の際に的確な対応ができます。
- 決済情報(承認番号・金額・日時)の自動記録
- 配送状況や配達完了の証明
- 返金処理やキャンセル対応の履歴
これらが揃っているだけで、チャージバックへの異議申し立てに必要な大半の材料が揃います。Shopifyでは、注文詳細画面で決済・配送・顧客情報が一元管理されています。また、Shopifyペイメントを利用している場合は、管理画面からチャージバック対応(証拠提出・状況確認)が行えます。
2. 不正利用を減らす技術的な対策を取り入れる
チャージバックの中でも特に多いのが、不正利用によるものです。注文段階でリスクを見極め、セキュリティを強化して、不正注文を通さない仕組みを整えることで被害を減らせます。次のような対策を検討してみましょう。
- 本人認証の導入:3Dセキュアなどを導入し本人確認を強化する。
- 不正検知ツールやAIスコアリングの活用:IP・住所・購入行動を照合することで、高リスク注文を自動で判定できる。
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チャージバック保証サービスの利用:不正によるチャージバックが発生した際、一定額が補償される。
Shopifyは、不正分析、3Dセキュア、支払いの手動確定などのセキュリティ機能を備えており、高リスク注文の判定や承認保留が可能です。これらを組み合わせることで、不正リスクを事前に抑えた運用が構築できます。
3. 顧客との連絡手段と店舗ポリシーを整える
不正利用ではないチャージバックは、購入者が「身に覚えがない」「説明と違う」と感じたことから発生するケースが多いです。次のような対策を講じることで、ショップと顧客の情報ギャップを減らすことができます。
- 請求明細に表示されるストア名をわかりやすく設定する
- サイト上の目につきやすい位置に問い合わせ先を表示する
- 返品・返金・キャンセル・定期購入の条件をわかりやすい形で提示する
- 無料トライアル終了後の課金など、誤解が起きやすい点を明示する
こうした工夫により、「まずショップに問い合わせる」という行動につながりやすくなり、チャージバックの前に問題を解消できる可能性が高まります。Shopifyストアの場合、ストア名・問い合わせ先・各種ポリシーをフッターやチェックアウト画面に設定できます。
まとめ
チャージバックは、EC事業者にとって売り上げの喪失や追加手数料など大きな負担につながるため、仕組みを理解し、発生しにくい環境づくりを整えておくことが重要です。理由は不正、品質不備、事務的要因に大きく分かれ、原因によって対策が異なります。
チャージバックが発生し妥当でないと判断した場合は、反論することができます。売上金が店舗に返還されるかどうかは、取引情報や配送証明など、チャージバック理由に関連する証拠をできるだけ多く、そしてすばやく揃えることが鍵となります。日頃から注文データや顧客対応履歴を整理しておきましょう。
また、請求・決済の管理を正確に行い、不正利用を防ぐ仕組みを整え、店舗ポリシーや問い合わせ先を明確にすることで、チャージバックの発生を大きく減らすことができます。こうした取り組みを継続することが、チャージバックのリスクを抑え、安心して運営できるEC店舗づくりにつながります。
チャージバックに関するよくある質問
チャージバックとは?
顧客がクレジットカード取引に納得できない場合、カード発行会社に申し立てて支払いを取り消す仕組みです。クレジットカードの不正利用や商品の未着、商品の不備などで発生します。
チャージバックはどのように行われる?
カード保有者が取引に関してカード発行会社に異議を申し立てると、発行会社が一時的に売り上げを保留し、小売業者に通知します。小売業者は期限内に証拠を提出し、正当性が認められればチャージバックは取り消されます。最終判断までに数十日かかることがあります。
チャージバックは返金と同じ?
チャージバックと返金は異なるものです。返金は小売業者が自ら行う払い戻しで、チャージバックは顧客が発行会社を通じて請求を取り消すプロセスです。チャージバックの場合は小売業者に手数料負担や売上保留が発生します。
顧客がチャージバックを請求すると何が起こる?
小売業者に通知が届き、取引内容や配送証明などの証拠提出が求められます。証拠が不十分な場合はチャージバックが確定し、売り上げと商品を失う可能性があります。正当性を示せればチャージバックは取り消され、売り上げが戻ります。
チャージバックが発生する例は?
購入者が「身に覚えのない請求」と判断した場合や、オンライン注文の商品が届かない場合などに発生します。店舗に直接連絡できなかった、説明がわかりにくかったことから申し立てに至るケースもあります。
文:Norio Aoki





