ミッションステートメントは、ビジネスにおける組織活動や意思決定の方向性を統一し、ブレないブランディングを実現するために重要な要素です。また、顧客に対してブランドの価値や理念を正確に伝えると同時に、ブランドボイス(ブランドの語り口やトーン)を確立する役割も担っています。
この記事では、ミッションステートメントとは何かとともに、混同されやすいビジョンステートメントや経営理念との違い、そしてミッションステートメントの作り方を解説します。さらに、お手本にしたい企業のミッションステートメントの例も紹介するので、ブランド戦略の一つとしてぜひ参考にしてください。
ミッションステートメントとは

ミッションステートメントは、経営理念を実現するために定めた、行動指針のことを指します。一般的にミッションとビジョンは簡潔に表現されるため、具体的にどのようなプロセスで実現されていくのかは抽象的になりがちです。
そこでミッションステートメントを作成することで、企業の存在意義を示す「ミッション」から、その結果としてどのような影響を与えていきたいかという「ビジョン」に至るまでのプロセスを、ストーリーのようにわかりやすく表現できます。この道筋やロジックが明確になることで、ビジネス全体の方向性を統一し、誤った判断を避けることにもつながります。
明確なミッションステートメントは、顧客にブランドの価値を伝えるとともに、従業員には目指すべき方向性や集中するべき取り組みなどを提供します。
ミッションステートメントとビジョンステートメントの違い
ミッションステートメントとビジョンステートメントの違いは、時間軸にあります。ミッションステートメントは現在の行動指針であり、未来像を描いたビジョンステートメントを実現するためのロードマップとして機能します。
ビジョンステートメントは、企業や団体が将来的に目指す理想像や到達したい姿を示すものです。一般的に5年から10年、あるいはそれ以上の長期的な目標を設定します。
ミッションステートメントと経営理念の違い
経営理念は、企業活動の根幹となる考え方や価値観を示し、事業の方向性や存在意義を定めるものです。抽象的な表現になることが多いため、具体的に表現することが難しい傾向にあります。一方で、ミッションステートメントは、その経営理念をより具体的かつ実践的な行動指針として言語化したものです。経営理念で掲げた理想を、実際の業務や意思決定に落とし込む役割を担っています。
ミッションステートメントの作り方

1. 作成チームを結成する
ミッションステートメントを作成する際は、専任のチームを立ち上げるといいでしょう。チームの構成は、役員や特定の部署に偏らず、さまざまな部門から代表者を集めることが重要です。また、管理職だけでなく一般社員や株主など、幅広い立場のメンバーを含めることで、より多角的で現実的な視点を取り入れることができます。多様な意見を反映させることで、組織全体に浸透しやすく、実行力のあるミッションステートメントを策定できます。
2. 盛り込むべき内容を考える
ミッションステートメントを形にするうえで重要なのは、単に理念を説明するだけではなく、誰に対してどんな価値を提供するのか具体的にすることです。そのためには、顧客ニーズ・企業の価値観・ビジョンへのつながりという3つの視点から整理すると、軸がぶれず、説得力のあるメッセージを作りやすくなります。
顧客のニーズに合致しているかを考える
まず、ミッションやビジョンがターゲット市場のニーズに合致しているかを考える必要があります。市場調査を通して顧客のニーズを把握したうえで、自社のブランドやサービスがどのような変化やメリットを提供できるのかを明確にすると、ミッションの方向性がより具体的になります。
顧客の欲求やニーズが曖昧な場合は、アンケートの実施やSNS上の口コミ・コメント分析を通じて、顧客が抱える課題や求める価値を可視化しましょう。実際の顧客の声を言語化してミッションに反映させることで、より共感性の高いメッセージを作成できます。
自社の価値観を明確にする
大切にするべき価値観を明確にすることで、一貫した意思決定や行動の優先順位、ミッションステートメントの基盤となっていきます。そのためには、事業に込めた想いや、なぜそのサービスを立ち上げたのか、といったブランドストーリーを見つめなおす方法がおすすめです。競合他社にはない、自社だけが提供できる価値観と差別化ポイントが見えてくるでしょう。
ミッションからビジョンへの道筋を具体的にする
ミッションステートメントは、ミッションに基づく活動が、どんなプロセスを経てビジョンに結びついていくかを示すものです。現在のビジネスや中長期的な目標とともに、その取り組みが社会をどう変化させていくのかを、具体的に考える必要があります。
たとえば、ミッションが「手の届きやすい太陽光発電システムを提供する」というもので、ビジョンが「すべての人にクリーンエネルギーを普及させる」という内容であれば、「さらに低価格化するための技術を開発する」「自治体との協力で啓発活動を行う」などのプロセスが考えられるでしょう。
3. 文章にまとめる
これまでに考えたアイデアを文章に落とし込む際は、シンプルでわかりやすい表現を心がけましょう。下記のポイントを押さえながら、難しい言い回しや抽象的な表現を避け、誰が読んでもすぐに理解できるようにすることが大切です。
記憶に残る、「応援したい」と思ってもらえる表現を意識する
ミッションステートメントは、顧客や投資家の共感を得るための強力なツールとなります。「どんな課題を解決しようとしているのか」「誰のための取り組みか」をストーリーテリングの手法で語ることで、人の心を動かすメッセージとなるでしょう。読み手の感情に訴える言葉を取り入れることで、メッセージに温かみや説得力が生まれ「応援したい」と思ってもらいやすくなります。
ビジネスの方向性と結びつくフレーズにする
使用する言葉やキーフレーズは、ビジネスの方向性と自然に結びつき、読んだ人が無意識に覚えられるようなものが理想です。例えば、環境にやさしい商品を通して企業ブランディングを行っている場合、ミッションステートメントには「未来の地球を守る」「持続可能な世界を実現する」といった言葉を取り入れると自然です。
このように、企業のメッセージとビジネスの軸を一致させることで、理念がより明確に伝わり、ブランド全体に一貫性が生まれます。
ポジティブな言葉でまとめる
読み手がポジティブに感じる表現を心がけましょう。ネガティブな問題ではなく、前向きな結果や解決策に焦点を当てることで、ブランドが「今、何をしているのか」「どのような価値を提供しているのか」を明確に伝えられます。その結果、読み手に信頼感と前向きな印象を与えるミッションステートメントを作成できます。
11のミッションステートメントの例
1. ファーストリテイリング
ユニクロで有名な株式会社ファーストリテイリングのミッションは以下の2つです。
- 本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
- 独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
これらのミッションステートメントは、さらに5つの要素に細分化され、それぞれの想いを明確に伝えています。特に「本当に良い服」というキーフレーズを中心に構成されており、ファーストリテイリングがどのような価値観で事業を展開し、洋服づくりを通じて社会に貢献しているのかが明確に示されています。
2. ChatWork
ChatWork(チャットワーク)のミッションは、「働くをもっと楽しく、創造的に」です。
ミッションステートメントには「働く人の心に宿る火に、薪をくべるような存在でありたい。」という一文も含まれており、その想いを体現する形で、2024年に社名を「kubell(クベル)」へと改名しました。
同社のチャットツールは日本で広く浸透しましたが、そのなかで「伸び悩む日本の生産性を向上させるには、中小企業のデジタル化が重要」だと考えるようになりました。そこで現在は、現場が忙しく余裕のない中小企業でも導入しやすいサービスを多数、開発しようと取り組んでいます。単なる業務効率化ツールにとどまらず、「やりたいこと」に取り組む時間を生み出すことで、「働くこと」そのものを豊かにするという企業姿勢が表れています。
3. メルカリ
メルカリのミッションは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」です。
このミッションには、誰かにとって価値がなくなってしまったモノを、別の誰かの「新たな価値」に変えたいという想いが込められています。その実現のために、誰もが気軽に売買できると同時に、単なる中古品ではなく「信頼できる」「価値ある」商品となるようなフリーマーケットプラットフォームの開発に取り組み、海外展開も積極的に進めています。
さらに、こうした取り組みが「信用」を生み出すことで、暗号資産やデジタル資産も含めたあらゆる価値を簡単に交換できる世界の実現を目指すと、ミッションステートメントで語られています。
4. Tesla
Tesla(テスラ)のミッションは、「持続可能なエネルギーへ世界のシフトを加速すること」です。
環境への強い取り組みと自動車産業の変革を象徴するミッションステートメントで、顧客にこの取り組みの一員であるという意識を抱かせます。
Teslaのミッションステートメントとビジョンステートメントは、いずれも人々の共感や意欲を喚起する言葉で構成されており、持続可能性に重きを置く姿勢を通じて、環境に配慮する顧客や従業員の共鳴を生みだします。このミッションステートメントに示されている通り、エネルギー貯蔵や太陽光発電など、ほかの持続可能なエネルギーに関するソリューションも展開しています。
5. Nike
Nike(ナイキ)のミッションは、「世界中のすべてのアスリート*にインスピレーションとイノベーションをもたらすこと(*体ひとつあれば、誰もがアスリートだ。)」です。
「アスリート」という言葉の横に付けられたアスタリスク(*)は、「体ひとつあれば、誰もがアスリートだ」という脚注につながっています。つまりNikeの製品が特定のアスリートだけでなく、すべての人のためにあることを示しているのです。トップアスリートとともに製品を開発しながら、誰でも使えるものとして世の中に発信していくことが同社のミッションステートメントに表れています。
6. 楽天
楽天のミッションは「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」です。
この言葉には、「常識にとらわれず、アイデアを重んじ、イノベーションの力で世界を変える」という想いが込められています。多彩な分野でイノベーションに挑むことが人々の成長を後押しし、「世界中の人々が夢を持って幸せに生きられる社会」につながっていくと語っています。短くシンプルな表現ながらも、企業としての目的や存在意義が誰にでも伝わるように設計されたミッションステートメントです。
7. Panasonic
Panasonic(パナソニック)のミッションは「人・社会・地球を健やかにする。」です。
このミッションは抽象的な理念にとどまらず、「人」「社会」「地球」それぞれに対してどのように価値を提供するのか、具体的に示すステートメントとして細分化されています。
- 人:一人ひとりに寄り添い、その人にあった「くらしの質」の向上
- 社会:社会活動を維持・向上する安心安全な「くらしインフラ」の提供(空気・水・光・電気・食)
- 地球:省エネ・資源保全が可能な商品・クリーンエネルギー創出・利活用による脱炭素・循環経済への貢献
さらに、これらのミッションステートメントは、イラストやビジュアルとともに提示されており、読み手がPanasonicのミッションを直感的に理解できる構成になっています。
8. ウォルト・ディズニー・ジャパン
ウォルト・ディズニー・ジャパンのミッションは「世界中の人々を楽しませ、知的好奇心を満たし、ひらめきと感動をお届けすること」です。
ミッションステートメントには、「世界最高峰のエンターテインメント企業であり続ける」という決意のもと、ブランドコンテンツや技術力を生かしたストーリーテリングを軸に、「よりよい世界を想像する」ために取り組むと語られています。その取り組みを象徴するように、地域社会への貢献、社員の労働環境、環境とサステナビリティに至るまで、幅広い活動を行っています。
9. 資生堂
資生堂のミッションは「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」です。
ミッションステートメントの冒頭に記載されている「私たちは、美には人の心を豊かにし、生きる喜びやしあわせをもたらす力があると信じています」は、資生堂が提供したい価値である「喜び」「しあわせ」のキーフレーズが明確に示されています。
さらに、「世界中の人々や社会・地球環境に対して果たすべき企業使命」として、社会全体や地球規模での貢献を視野に入れていることを表明することで、単に商品を販売して利益を得る企業ではなく、社会をより良くする存在として顧客の共感を得やすくなっています。
10. Amazon
Amazon(アマゾン)のミッションは、「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」です。
このミッションを実行するために、4つのステートメントを掲げています。
- お客様を起点にする
- 創造への情熱
- 優れた運営へのこだわり
- 長期的な発想
さらにAmazonは、従業員にとっても最高の雇用主であり、最も安全な職場を提供することをもう一つのミッションとして掲げています。すなわち、Amazonは「地球上で最もお客様を大切にする企業」であると同時に、「地球上で最高の雇用主」および「地球上で最も安全な職場」を目指しています。
こうしたミッションを実現するために、革新的な取り組みや先駆的な事業活動についてもミッションステートメントで紹介されています。
11. Patagonia
Patagonia(パタゴニア)のミッションステートメントは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。
このミッションステートメントは、シンプルでありながら強いメッセージを持つ言葉で、企業の存在意義と行動指針を明確に示しています。また「地球が私たちの唯一の株主である」と宣言し、地球環境の保全や回復をビジネスを通じて実現することを目指しています。そのために、「最高の商品を作る」「事業に透明性を持たせる」「地球を守る」「公正、公平、反人種差別でいる」「従来のやり方にとらわれない」などの価値観・行動基準を定義しています。
ミッションステートメントを更新するタイミング

ミッションステートメントは、定期的な見直しや更新が必要になるケースがあります。
最も一般的なのが、会社に大きな変化が生じたときです。たとえば、新しい市場への進出や事業拡大に伴い、これまでのミッションが現状に合わなくなるケースです。最初は「町で最高のコーヒーショップを目指す」ことが目的だったとしても、国内外で事業を展開しているなら、より大きな視点でミッションを再定義する必要があるでしょう。
ほかにも、以下のようなケースではミッションステートメントを更新する必要があるでしょう。
- 表現が古い:現代の言葉遣いや考え方に合っておらず、読み手の共感を得られない場合
- インスピレーションの欠如:チームがミッションを聞いても心が動かない、やる気が湧かないと感じる場合
- 合併や買収:他社と統合した場合
こうした大きな変化がない場合でも、健全な経営のためには定期的なミッションステートメントの見直しが大切です。見直す際は、以下のような視点で考えると良いでしょう。
- 今のミッションステートメントはブランドの本質を正しく捉えているか
- 社員や顧客にわくわく感や共感などを与えられているか
ミッションステートメントを常に最新の状態に保つことで、ビジネスのあらゆる局面で柔軟に対応できます。
まとめ
ミッションステートメントは、個人事業主でも企業でも目標達成のためには重要な要素です。明確なミッションステートメントを持つことで、日々の行動や意思決定に一貫性が生まれ、進むべき方向を見失わずに進むことができます。また、社員のモチベーションや顧客との信頼関係を高める役割も果たします。
本記事で紹介したミッションステートメントの例は、「シンプルで明確」「目的が伝わる」「行動につながる」などの特徴があります。これらを参考にすることで、ミッションからビジョンにつなげられる確実なミッションステートメントを作成することができるでしょう。
ミッションステートメントに関するよくある質問
ミッションステートメントの意味は?
ミッションステートメントは、ブランドやビジネスが掲げるミッションを、どのように実現していくかを明確に示した文章のことです。企業活動や行動の指針として活用することができます。
ミッションステートメントの書き方は?
ミッションステートメントの書き方は、まず専任チームを組織することから始まります。幅広いメンバーの視点で、市場ニーズの分析やブランドストーリーの見直しを行い、ミッションの実現に向けたプロセスを具体化していきます。また、記憶に残り、共感を得られる言葉で文章化し、読む人に信頼感とポジティブな印象を与える内容を心がけましょう。
優れたミッションステートメントとは?
優れたミッションステートメントとは、ビジネスの存在理由、全体的な目標、提供する製品やサービス、ターゲット市場、事業を展開する地域について、明確で簡潔に示したものです。
ミッションステートメントの内容を考える際に大切なことは?
ミッションステートメントの内容を考える際に大切なことは、社員だけでなく、顧客や株主、求職者など幅広い層を意識することです。
文:Momo Hidaka





