商品を売るためのマーケティングアイデアはいろいろありますが、ECにおいては、「どれだけ多くの人に商品を届けられるか(顧客数)」「その人たちに何度買ってもらえるか(購入頻度)」「1回の購入でどれくらいの金額を使ってもらえるか(客単価)」という3つの軸を意識し、3つの要素をバランスよく高めていくことが重要です。
この記事では、これらの視点にもとづいた効果的な商品マーケティング戦略のアイデアをまとめました。
目次
1. ロイヤルティプログラムを導入する

ロイヤルティプログラムは、既存顧客のリピート購入を促し、長期的な売上を支える商品マーケティング戦略です。
一度購入してくれた顧客に、ポイントや特典を提供することで「またここで買いたい」と思ってもらえる仕組みをつくるのが、ロイヤルティプログラムの役割です。初回購入の獲得だけでなく、その後の継続的な売上を生み出すために、多くの小売ブランドが導入しています。
たとえば、購入ごとにポイントが貯まり、一定数で割引やギフトと交換できる仕組みは、わかりやすく効果的です。Shopify(ショッピファイ)アプリを使って簡単にロイヤルティプログラムを組み込むこともできるため、EC初心者でも手軽にスタートできます。
ロイヤルティプログラムはLTV(顧客生涯価値)を高める有効な手段にもなります。最初から複雑な設計にせず、まずは簡単な特典から試してみるのもいいでしょう。
柚塩ラーメンの販売で有名なAFURI(アフリ)は、ShopifyアプリのeasyPoints(イージーポインツ)を利用してポイント制度を導入しました。結果として、リピート率は約30%に達し、直近会員の短期リピート率は非会員の3倍以上になったといいます。平均の注文単価も、会員のほうが高額になっているそうです。

ロイヤルティプログラムの活用ポイント
- 購入回数や金額に応じて特典を用意する
- ポイントだけでなく、限定商品の優先販売や会員限定セールなど「特別感」を演出する
- 顧客が自分のステータスやポイント状況を確認できるようにする
2. リピート購入につなげるためのフォローアップメールを送る
一度商品を購入してくれた顧客に対し、適切なタイミングでメールを送ることで、リピート率を高めることができます。こうしたメールはフォローアップメールと呼ばれ、小売マーケティングでは、再購入を促進するために用いられる定番の施策です。
たとえば、購入から10日後に「使い心地はいかがですか?」といった内容のメールを送り、レビュー投稿や次回購入のクーポンを案内することで、再訪率がアップします。簡単なアンケートを送り、使い心地や購入の決め手、改善してほしい点などの貴重なフィードバックを集め、アンケートに回答してくれた顧客に対してクーポンや特典を用意するといった方法もあります。
また、商品の使用サイクルに合わせて、リマインドを送る方法も効果的です。そのほかにも、商品をカートに入れたまま購入しなかった顧客に向けて、「お忘れではありませんか?」という内容で送るカゴ落ちメールは、購買を後押しする効果が高く多くのECサイトで導入されています。
誕生日や記念日に合わせた特別メールも効果的です。「お誕生日おめでとうございます。本日限りの10%OFFクーポンをどうぞ」といったメッセージを送ることで、顧客に特別感を与え、ブランドへの好印象や再購入意欲を高めることができます。
Shopifyでは、Shopifyメールなどのアプリを使うことで、こうした販売マーケティング施策を自動化できます。あらかじめ設定しておけば、購入日を起点に自動でメールが配信されるため、運用の手間も少なくて済みます。
小柄な女性のためのアパレルブランドのCOHINA(コヒナ)も、商品を購入してくれた顧客に対してフォローアップメールを送る取り組みを行っています。COHINAのネットショップは、会員が商品ページからワンクリックでお気に入りの商品リストを作れる仕組みを採用しています。それにより、商品に興味をもっている顧客に対し、在庫の再入荷や販売開始のタイミングなどで、リマインダーとしてメールを送信できるようになっています。


フォローメールの活用ポイント
- 購入直後には「お礼+使い方ガイド」を送って信頼感をアップさせる
- アンケートで顧客の声を集め、商品改善や販促に活かす
- 数日〜数週間後にはレビュー依頼や再購入クーポンを送信する
- 商品のライフサイクルや、顧客が商品を求めるシーズンを意識して、メールを送るタイミングを設計する
- セール情報や新商品の案内も、既存顧客向けに届ける
3. メールまたはSMSの新規登録特典としてクーポンコードを送信する

メールやSMSの登録を促す際に、クーポンコードなどの特典を用意することで、見込み客との最初の接点をつくりやすくなります。
たとえば「メールアドレスを登録すると初回注文が10%オフ」や「SMS登録で送料無料クーポンがもらえる」といった特典を提示すると、新規顧客にとっても登録のハードルが下がります。既存顧客の再訪問にも、見込み客の購入促進にもつながるシンプルで効果的な施策です。
ECサイトでは、訪問時にポップアップを表示して「新規登録で限定オファーをプレゼント」と案内する方法がよく使われています。登録完了後には、すぐに使えるクーポンコードを画面上に表示したり、メールやSMSで自動送信するのがおすすめです。
SMSは、送信文字数が限られていますが、メールと比べて開封率が高いといった特徴もあります。Shopifyと連携できるYotpo(ヨットポ)やKlaviyo(クラビヨ)などのアプリを使うと、SMSマーケティングもスムーズに導入が可能です。
メールとSMS、どちらか好きな方法で登録できるようにすることで、ユーザーにとっても登録のハードルが下がります。特典を受け取る方法を選べることで、気軽にアクションを起こしてもらいやすくなります。
新規登録特典の活用ポイント
- 初回購入限定で使えるクーポンを提供する
- 送料無料やおまけ付きなど、金額以外の特典も検討する
- ポップアップで目につきやすくし、登録直後に特典を表示する
- メールとSMSの両方に対応した登録フォームで選択肢を広げる
4. 新商品を定期的にリリースする
新商品を継続的に発売することで、顧客の関心を引き続け、ブランドへの注目度を保つことができます。
どんなに人気の商品でも、同じラインナップだけではリピーターの購入頻度が落ちてしまいます。新商品が登場することで既存顧客の再訪問や購入のきっかけになります。
たとえば、週に1回や月に1回などのペースで新作を発表するブランドでは、SNSやメールでの発信を通じて、商品そのものだけでなくブランドの活動そのものに注目が集まります。「数量限定」や「期間限定」といった要素を加えれば、購入の決断を早める効果も期待できます。
新商品といっても、まったく新しいアイテムを用意する必要はありません。定番商品のカラー展開を増やす、過去に好評だったデザインをリミックスする、季節やイベントに合わせたパッケージを作るなど、小さな工夫でも十分に新鮮さを感じてもらうことが可能です。
チーズケーキ専門店のMr. CHEESECAKE(ミスターチーズケーキ)は季節限定セットを定期的に展開しています。人気のフレーバーは完売後、数量限定で再登場することもあり、ファンの期待感を高めています。

新商品を定期的に届ける時のポイント
- 定期的なスケジュールで新作リリースを計画する
- SNS、メール、LINEなどで予告を出し、期待感を醸成する
- 限定フレーバーや期間限定・数量限定などの工夫で購入意欲を刺激する
- 季節のイベント(母の日・ハロウィン・バレンタインなど)に合わせて企画を展開する
5. サブスクリプションモデルを構築する
サブスクリプション(定期購入)モデルを導入すると、安定した売上を維持しつつ、顧客との長期的な関係構築が可能になります。
サブスクリプションとは、顧客が定期的に商品を受け取る契約形態のため、顧客の購入の手間を省くと同時に、「商品を切らす心配がない」という安心感を提供し、LTV(顧客生涯価値)の向上にもつながります。特に、日常的に使用するコーヒー、プロテイン、サプリ、スキンケアなどの消耗品と相性がよく、継続率を高める特典設計と組み合わせることで、単なる定期配送以上の価値を提供できます。
Shopifyであれば、日本語対応の定期購入アプリが豊富に揃っているため、導入のハードルも低く、EC初心者でも始めやすい点が魅力です。
たとえば肉屋大石は、お肉の定期便をShopifyで展開しています。通常プラン、低脂質プラン、ギフトプランから選ぶことができ、セット内容は毎月変わるため飽きずに楽しむことができます。レシピ提案も同時に行われているため、多くの家庭に継続的に利用されています。

サブスクリプションを成功させるポイント
- 商品の種類や配送頻度を選べるようにして、柔軟性を持たせる
- 初回割引や定期便限定のおまけを用意する
- スキップや解約の操作を簡単にし、顧客の不安を軽減する
6. 平均、中央値、最頻値を活用する
商品の価格帯や注文傾向を分析することで、より的確なマーケティング戦略を立てることができます。
まずは、デモで作成された下のストアのグラフと表を見てみましょう。

- 平均値(Mean):平均注文額
- 中央値(Median):すべての注文額の中間値
- 最頻値(Mode):最も頻繁に発生する注文額
データをみると、平均注文額は24ドルですが、最も頻繁に発生する注文額は15ドルです。「平均」だけを見て判断すると、実際の購買傾向を見誤ってしまうことがあります。平均注文額を上げたいときは、平均値そのものよりも、最頻値を上げていくことが重要になります。
よく取られる戦略としては、最頻値を少し上回る金額で無料配送を提供する方法が挙げられます。デモストアで考えると、最も頻繁に発生する注文額が15ドルなので、それよりも上の20ドル以上の注文額で無料配送を提供するといったキャンペーンを行えば、最頻値が引き上がる可能性があります。
データを活用するポイント
- 平均、中央値、最頻値をセットで確認する
- 最も多い購入価格帯を基準にキャンペーン設計を考える
- 無料配送などの特典は、最頻値より少し上の金額に設定する
7. アップセルとクロスセルを提案する
顧客が検討中の商品に関連するアップセルとクロスセルの提案を行うことで、1回あたりの注文額を自然に引き上げることができます。
アップセルとはより上位のグレードやセット商品に誘導すること、クロスセルとは関連商品を追加で提案することを指します。たとえばTシャツを購入する際に、一緒に人気のあるデニムをおすすめするのはクロスセル、2枚セットで10%オフと表示するのはアップセルです。顧客に「ついでに買う理由」を与えることで、自然に購入単価を上げる仕組みです。
どちらも、すでに購入意欲が高い顧客に対して、より満足度の高い選択肢を提案できる可能性があります。
Shopifyでは、ReConvert Upsell(リコンバート・アップセル)などのアプリを使って、クロスセルやアップセルの提案を自動化することも可能です。カート画面や商品ページ、注文完了ページにおすすめ商品を表示することもできるので、最小限の手間で売上の底上げにつながります。
アップセル・クロスセル提案のポイント
- 商品ページに「一緒に買われている商品」を表示する
- 「まとめ買い割引」や「セット割引」で購入単価を上げる
- カート画面やチェックアウト直前におすすめ商品を提示する
8. 広告費をかける
短期間で集客や認知を高めたいときは、広告費をかけたマーケティングが特に効果的です。Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)のMeta(メタ)広告、Google(グーグル)広告、TikTok(ティックトック)広告など、SNSを活用した広告出稿は手軽に始められます。ターゲット層にあわせて、媒体や配信方法を検討しましょう。
また、SNSを中心としたインフルエンサーとのコラボレーションも有効です。拡散力が高く、共感を得やすいため、購買行動にもつながりやすい特徴があります。最初は少額の広告出稿や、マイクロインフルエンサーとの連携から始めてみるのがおすすめです。
たとえば、日本のスキンケアブランド AYURA(アユーラ) では、公式アンバサダーとなるインフルエンサーを募集し、新商品の提供などを報酬に、Instagramでレビューを投稿してもらうというインフルエンサーマーケティングを展開しています。これは実際に20代後半のユーザー層を中心にSNS経由での認知拡大につながったという結果もでています。広告ではなく、共感をベースにした発信だからこそ、自然な流入につながりやすいのも特長です。

広告費をかけるときのポイント
- 少額から始められるSNS広告を選ぶ
- マイクロインフルエンサーに商品提供して投稿を依頼する
- Shopifyの広告連携アプリを活用する
9. 教育コンテンツを公開する
教育コンテンツとは、商品そのものではなく「その商品を使うための知識」や「生活をよりよくするヒント」を伝える記事や動画のことです。自社商品のUSP(ユニークセリングプロポジション、またはユニークセリングポイント)を伝える機会としても有効で、他社とどう違うのか、なぜ選ばれるのかをムリなくアピールできます。有料広告を掲載しなくても検索経由での集客を得やすく、商品に関心の高い読者を自然にECサイトへと導くことができます。
コンテンツを発信する際は、ブログやSNS、YouTube(ユーチューブ)、ニュースレターなど、媒体ごとの特徴を活かすことが大切です。たとえば、検索経由の流入が期待できるブログではSEOを意識した記事を、SNSでは写真や動画で視覚的に伝える投稿を、ニュースレターでは季節の提案やストーリー性を重視した情報発信を行うと効果的です。
長野県の老舗味噌蔵である新田醸造では、ブログを活用して味噌を使ったレシピを継続的に発信しています。検索で見つけたレシピからサイトへ訪れた人が、そのままオンラインで味噌を購入するという導線が完成しているのです。

教育コンテンツを活用するポイント
- 商品ジャンルに関連するキーワードをテーマにする(例:時短レシピ、夏に食べたいレシピなど)
- Shopifyブログに定期的に記事を投稿し、SEOを意識した構成にする
- SNSでは写真や動画でビジュアル的に伝え、拡散と導線づくりを両立する
- コンテンツ内に商品ページへのリンクを自然に組み込み、購入につなげる
10. 訪問者のコンバージョン率を上げる
すでにある程度アクセスが集まっているショップでは、新たな集客にお金をかける前に、今の訪問者を「どれだけ購入につなげられるか」を見直すことが大切です。これをCRO(コンバージョン率最適化)と呼びます。
CROの大きなメリットは、新しく広告費をかけるよりも少ないコストで売上を伸ばせるという点です。コンバージョン率が上がれば、同じトラフィック量でも売上が増えます。
たとえば、今のコンバージョン率が1%であれば、100人が訪問して1人が購入しているという状態です。これを2%に改善できれば、同じ100人でも2人が購入してくれることになります。アクセス数を増やさずとも、売上が2倍になる可能性があるということです。
具体的には、次のような改善を試してみましょう。
- 商品ページを充実させる:説明文をわかりやすく、魅力的に書き直し、写真や動画を高品質なものに差し替えます。レビューや保証の表示も効果的です。
- 購入ボタンを目立たせる:ボタンの色を変えて目立たせたり、ファーストビュー(スクロールしなくても見える位置)に配置することで、クリック率が上がります。
- 購入フォームを簡単にする:購入時の入力項目を減らし、ストレスのない購入体験を提供しましょう。
- 決済方法を増やす:クレジットカード以外に、コンビニ払い、PayPay(ペイペイ)、Apple Pay(アップルペイ)など、さまざまな決済手段を用意することで、購入を迷っている顧客の背中を押すきっかけになります。
- 離脱防止の工夫をする:カートに入れたのに購入されなかった場合、リマインドメールやポップアップで再訪を促しましょう。
まとめ
商品マーケティングを成功させるためには、自社の商品や顧客に合った手法を戦略的に選び、継続的に取り組んでいくことが大切です。本記事では、ECにおける売上向上の3つの軸(顧客数、購入頻度、客単価)を意識しながら、Shopifyを活用して実践できる10のマーケティング施策を紹介しました。
検索流入を増やすコンテンツ発信や、SNSを活用した認知拡大、メールによるリピート促進、コンバージョン率の改善など、それぞれの施策は単体でも効果がありますが、組み合わせることでより大きな成果につながります。多くのヒット商品も、こうしたマーケティング戦略の積み重ねによって生まれています。この記事で紹介したような事例を参考に、自社に合った形で実践してみてください。
一つひとつの施策を、自社のフェーズや課題に合わせて取り入れ、持続可能なビジネスの成長を目指していきましょう。
よくある質問
アクセスはあるのに、商品が売れない場合、最初に取り組むべきことは?
まずはコンバージョン率の最適化(CRO)に取り組みましょう。これは、今サイトに訪れている人のうち、どれだけを購入につなげられるかを改善する作業です。商品ページの説明文がわかりやすく魅力的か、写真や動画は十分な品質か、購入ボタンが目立つ位置にあるかなどをチェックしましょう。さらに、入力項目が多すぎないか、決済方法が充実しているか、離脱を防ぐ工夫がされているかも大切なポイントです。 新たな集客に投資する前に、まずは今あるトラフィックをしっかりと売上につなげられるよう整えましょう。
商品のリピート購入率を改善するにはどうすればいいですか?
購入後のフォローメールやクーポン配布、ロイヤルティプログラムの導入が効果的です。特にメールは自動化が可能で、購入体験を補完する情報や感謝の気持ちを伝えるだけでも、再訪率が高まります。レビューやフィードバックを促すメールも有効です。
サブスクリプションモデルはどんな商品と相性がいいですか?
日用品や食品、美容・健康系の商品(スキンケア、サプリ、コーヒーなど)は、継続的なニーズがあるためサブスクリプションモデルとの相性が抜群です。
文:Taeko Adachi





