EC市場の競争が激化する中、顧客はより迅速で正確な配送を当たり前と期待するようになりました。一方で、事業者は顧客の多様なニーズに応えるため、ギフトセットやサブスクリプションボックスなど、複数の商品を組み合わせた販売機会が増加し、バックヤードのフルフィルメント業務は複雑化の一途をたどっています。
その結果、「注文ごとに複数の商品をピッキングする作業に時間がかかりすぎる」「セット商品の在庫管理が煩雑で、欠品や過剰在庫が起きやすい」「人件費や梱包コストを削減したいが、顧客満足度は下げられない」といったジレンマに直面している事業責任者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、こうした課題を解決する強力な一手として、在庫管理手法「キッティング」を解説します。業務効率を飛躍的に改善し、コスト削減と顧客満足度の向上を両立させるための具体的な導入ステップ、メリット、注意点までを網羅的に紹介します。
キッティングとは?
キッティングとは、関連性の高い複数の商品をあらかじめ一つのセットとして組み立て、いつでも発送できる状態にしておく在庫管理の手法です。
こうして作られたセット(キット)には、新しいSKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位)が割り当てられ、システム上は「一つの商品」として扱われます。これにより、注文が入った際のピッキングや梱包作業が劇的に簡素化されます。例えば、「新生活応援セット」としてフライパンや包丁を一つの箱に詰めたり、「スキンケアお試しセット」として化粧水や乳液のミニボトルをセットにしたりするなどが具体例です。
「バンドル販売」との違い
キッティングと似た言葉に「バンドル販売」がありますが、目的が異なります。
- キッティング: バックヤードでの業務効率化が主な目的です。
- バンドル販売: ECサイト上での売上向上が主な目的のマーケティング施策です。
バンドル販売で提供される商品を、裏側で効率的に管理・発送する手法がキッティングであると理解すると分かりやすいでしょう。
キッティング導入の5ステップ
キッティングは、基本的なプロセスを理解すればすぐに始めることができます。
ステップ1:キット化する商品を選ぶ
まず、どの商品を組み合わせてキットにするかを決定します。過去の購買データから「一緒によく購入されている商品」の組み合わせを探すのが確実です。その他、「用途」や「テーマ」で組み合わせる方法もあります。
ステップ2:キットを組み立て、梱包する
組み合わせる商品が決まったら、実際に一つの箱や袋に詰めていきます。配送中に商品が破損しないよう、適切なサイズの梱包材を選び、必要に応じて緩衝材を入れましょう。
ステップ3:新しいSKU(商品管理番号)を割り当てる
組み立てたキットは「一つの新しい商品」と見なし、必ず新しいSKUを割り当てて在庫管理システムに登録します。これにより、個々の部品と完成したキットの在庫を正確に追跡できます。
ステップ4:完成したキットを専用の場所に保管する
完成したキットは、倉庫や保管スペース内の決められた場所にまとめて置きます。「どこに何があるか」を誰もが把握できる状態にしておくことが重要です。
ステップ5:注文を受け、発送する
注文が入ったら、保管場所からキットを取り出し、配送ラベルを貼って発送します。キットの重量やサイズはすべて同じなので、受注から発送までのリードタイムを大幅に短縮できます。
EC事業者がキッティングで得られる6つのメリット
キッティングの導入は、多くの具体的なメリットをもたらします。
1. 発送プロセスの高速化
注文ごとに複数の商品を探し出す必要がなくなり、一つのキットをピッキングするだけで完了するため、発送業務が大幅にスピードアップします。
2. 在庫管理の最適化
キットに新しいSKUを割り当てることで管理対象が減り、在庫管理がシンプルになります。ShopifyのようなECプラットフォームの在庫管理機能を活用すれば、キットの販売と構成部品の在庫数を自動で連動させることも可能です。
3. 梱包資材と配送料の削減
一つの箱にまとめることで、使用する段ボールや緩衝材の量を減らせます。また、荷物のサイズが小さくなることで、配送料を削減できるケースも少なくありません。
4. 人件費の削減と生産性の向上
ピッキングや梱包にかかる時間が短縮され、従業員はより少ない時間で多くの注文を処理できるようになります。これにより人件費の抑制に繋がり、創出された時間は他の付加価値の高い業務に充てることができます。
5. 不良在庫(デッドストック)の解消
人気商品と、動きの鈍い商品を組み合わせてキット販売することは、デッドストックを解消する有効な手段です。在庫の健全化とキャッシュフローの改善に貢献します。
6. 保管スペースの有効活用
キットとして商品をコンパクトにまとめておくことで、保管に必要なスペースを削減できます。倉庫賃料の削減や、空いたスペースの有効活用に繋がります。
キッティング導入前に知っておくべき注意点
多くのメリットがあるキッティングですが、無計画に導入するとかえって混乱を招く可能性もあります。以下のような失敗を避けるため、注意点を理解しておきましょう。
- SKU管理の混乱: キットに新しいSKUを割り当て、システムに正しく登録するルールを徹底しないと、在庫数が合わなくなり、販売機会の損失や過剰在庫に繋がります。
- 需要予測の失敗: 売れると見込んで大量にキットを作成したものの、実際には売れずに、キットを解体して個別の商品に戻す手間が発生することがあります。過去のデータに基づき、慎重に需要を予測しましょう。
- 非効率な作業フロー: キットを組み立てるための専用スペースや、明確な作業手順を決めておかないと、作業効率が上がらないばかりか、ミスを誘発する原因になります。
- 品質の低下: 組み立てを急ぐあまり、商品の入れ間違いや、不適切な梱包による配送中の破損が発生することがあります。品質を担保するための検品プロセスは必ず設けましょう。
- 不適切な梱包によるコスト増: キットのサイズに対して過剰に大きい梱包材を使ったり、不要な緩衝材を多用したりすると、かえって資材費や配送料が高くつくことがあります。
まとめ
キッティングは、単なる梱包作業の工夫ではありません。EC事業の根幹であるフルフィルメント業務全体を最適化し、コスト構造を改善する、極めて重要な経営戦略です。
発送プロセスの高速化、在庫管理の簡素化、コスト削減といった直接的なメリットに加え、創出された時間や資源をより創造的な業務に再投資することで、ビジネスの成長サイクルを加速させることができます。
まずは、「いつも一緒に購入されるあの商品の組み合わせ」から、試験的にキッティングを始めてみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、あなたのECビジネスを次のステージへと押し上げる、大きな推進力になるはずです。





