販売した商品や提供したサービスの代金を確実に受け取るための請求書は、ビジネスに欠かせない書類です。
日本では、2023年10月から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入され、請求書の書き方に新しいルールが加わりました。ECサイトを運営する個人事業主や中小企業にとっても、この対応は取引先との信頼関係を保つうえで重要です。
ただ、いざ作成しようとしても、法律で定められた項目やインボイスに対応するための要件について迷うことも多いのではないでしょうか。本記事では、請求書とは何か、書き方や記載すべき項目、インボイス制度への対応方法など、請求書に関する基本をわかりやすく解説します。
請求書とは

請求書とは、販売者と購入者の間で行われた取引内容を示し、商品やサービスの代金を請求するために発行される書類です。両者の認識を一致させることで、スムーズな決済が行われるように促す役割を持っています。そして適切に作成された請求書は、法的拘束力を持つ証憑書類となります。
請求書の3つの役割

1. 確実な代金回収
請求書には支払期日(即時払い・月末払いなど)が明記されているため、確実に代金を受け取るための根拠になります。支払期限を明示することでキャッシュフローの見通しが立ち、資金繰りや経費計画を安定させることができます。
2. 取引の証拠と税務対応
請求書は、販売した商品やサービスの内容、金額、日付を明確に記録する証拠書類です。
取引内容に誤解が生じた場合の根拠になるだけでなく、税務調査や会計監査においても重要な役割を果たします。また、帳簿付けの基礎資料として、日々の売上記録や仕入れ管理にも活用できます。
インボイス制度のもとでは、適格請求書を発行・保存することが、仕入税額控除を受けるための条件になっています。
3. 経営管理と分析
請求書のデータを蓄積・分析することで、季節ごとの需要や販売トレンドを把握できます。
これにより、在庫管理や販売計画の改善、キャッシュフローの最適化など、経営判断の精度を高めることができます。定期的に請求書を確認・整理する習慣を持つことで、事業全体の健全性も見直せます。
インボイス制度と請求書

2023年に導入されたインボイス制度は、サービスや商品を購入した事業者が確定申告で消費税の仕入税額控除を受けるために、一定の要件を満たした「適格請求書(インボイス)」を保存しておくことを義務付けた制度です。
そのためB2B取引で販売側となる事業者は、適格請求書発行事業者としてあらかじめ税務署に登録しておき、取引の際にインボイス対応の請求書を発行する必要があります。また適格請求書には、登録番号・取引日・取引内容・税率ごとの消費税額・税率区分・発行者の名称などを記載する決まりがあります。
請求書の書き方

請求書作成ソフトを活用する
市販の請求書作成ソフトやクラウドサービスを使えば、見やすく整った請求書を簡単に作成できます。
これらのツールには、自社の情報やロゴを入れられるテンプレートが用意されているほか、入金管理やレポート作成などの機能が搭載されているものもあります。
最近では、インボイス制度に対応した請求書を自動で発行できるソフトも増えています。
たとえば「freee」や「マネーフォワード クラウド請求書」では、登録番号や税率ごとの消費税額を自動で反映でき、仕入税額控除に対応した適格請求書をスムーズに作成できます。
Shopifyの無料請求書テンプレートを使うと、数回クリックするだけでその場で電子請求書を発行できます。
自分で請求書を作成する
WordやExcelなどのソフトを使って、自分で請求書を作成することも可能です。
インターネット上には無料のテンプレートも多く公開されており、レイアウトを調整しながら自社に合ったデザインにカスタマイズできます。
ただし、自分で作成する場合は、記載漏れや金額の誤りがないかを丁寧に確認することが大切です。特にインボイス制度では、登録番号・税率区分・消費税額の明記などが必要になるため、最新のルールに沿った書式を使うようにしましょう。
請求書の必要項目

請求書の必要項目
法律的に含める必要がある項目には◎をつけて表示しています。
- タイトル:他の書類と混同されないように、書類の上部に「請求書」または「INVOICE」と明記します。実務的に必要であるだけでなく、ほとんどの国ではB2B取引における法的義務でもあるため、越境ECで請求書を発行する際は特に注意が必要です。
- 請求書番号:各請求書を識別する番号を入れます。連番にすると後で管理しやすくなります。
- 発行者情報◎:自社の会社名、住所、電話番号、メールアドレス、担当者名などを記載します。
- 請求先情報◎:顧客名、請求先住所、配送先住所(請求先と異なる場合)、電話番号、メールアドレスなど、請求書を受け取る相手が特定できる情報を記載します。
- 取引年月日◎:実際に取引が発生した日を記載します。
- 請求日:請求書を発行した日付を記載します。
- 取引内容◎:商品名、サービス名、数量、単価、SKU番号(在庫管理コード)などを記載します。B2B取引の場合は、取引先との契約で定めた仕切り価格(取引先向け単価)を明記することもあります。
- 合計請求金額:個別の金額や税額を記載したあと、最終的に支払ってもらう総額を一番目立つ位置に記載します。
- 消費税額◎:適用する税率と消費税額を記載します。消費税に関する最新情報は、国税庁のウェブサイトで確認できます。消費税法等は改正される可能性もあるため、定期的に最新情報を確認しましょう。
- 支払期日:支払期限を明確に記載し、顧客が支払い時期を迷わないようにします。一般的には「請求日から30日以内」「月末払い」「翌月15日払い」などの形式が使われます。前払いが必要な場合や、半額前払いなどの特別な条件がある場合は、その旨も明記しておきましょう。
- 支払方法:振込での支払いを依頼する場合は、金融機関名、支店名、口座番号、名義に加えて、銀行コードや支店コードも記載します。
- 備考欄:配送条件や配送方法、追跡番号、振込手数料の負担やお礼文など、必要に応じて追加の情報を記載します。
適格請求書で追加が必要な項目
- 登録番号◎:税務署から付与される「T+13桁」の番号を記載します。
- 税率ごとの消費税額および合計◎:標準税率(10%)と軽減税率(8%)を区分して表示します。
- 税率区分◎:軽減税率の対象商品には明示的に区分を記載します。
請求書作成時の注意点

請求書は発行して終わりではありません。金額の書き方、送付方法、保存ルールなど、ビジネス上の信頼につながる大切なポイントがあります。
特に、電子データでのやり取りが増えた今は、2022年に改正され、2024年1月に猶予期間が終了した電子帳簿保存法(電帳法)への対応が欠かせません。ここでは、請求書を正しく扱うために知っておきたい注意点を紹介します。
請求書の控えを保管する
請求書は、発行後に一定期間の保管が法律で義務付けられています。個人事業主の免税事業者は5年間、課税事業者や法人は7年間、請求書の控えを保存する必要があります。
また、メール送信やクラウド共有など電子データで請求書をやり取りした場合は、電子帳簿保存法(電帳法)に沿ってデータのまま保存しなければなりません。2024年1月からは猶予期間が終了し、控えを紙に印刷して保管するだけでは認められなくなりました。
電子データを保存する際は、次の要件を満たす必要があります。
- 改ざん防止の措置(タイムスタンプなど)をとること
- 日付・金額・取引先名などで検索可能にすること
- ディスプレイやプリンタを備え付け、表示・印刷できること
freee、マネーフォワード、弥生などのクラウド会計ソフトを使えば、インボイス制度と電子帳簿保存法の両方に対応したフォーマットで保存できます。
請求書の送り方に注意する
請求書の送付方法には「郵送」「メール送信」「クラウド共有」などがあります。
どの方法でも問題はありませんが、電子データで送る場合はすべて電子取引として扱われ、電帳法の保存義務が発生します。
- 郵送(紙の請求書):確実に届きますが、印刷や郵送コストがかかります。紙で送った場合でも、自社でスキャンして電子データで保存しておきましょう。
- メール送信(PDFなど):最も一般的な方法です。ただしPDFを送った時点で電子取引となるため、紙での保存は不可となります。ファイル名を「請求書_○月分_取引先名」などとしておくと管理しやすくなります。
- クラウド請求書サービスの共有リンク:発行・送付・保存を自動で行えるため、送付ミスを防ぎ、法令対応もスムーズです。
金額の書き方を統一する
金額の書き方に法的なルールはありませんが、表記を統一することが信頼につながります。
「円」と「¥」のどちらを使うかを決め、桁区切り(カンマ)を入れるようにしましょう。
また、内税、外税のどちらで表記しているかを明記しておくと、誤解を防げます。
個人事業主は源泉徴収の対象か確認する
源泉徴収は、報酬を支払う側が所得税などをあらかじめ差し引いておいて納税する仕組みです。フリーランスの個人事業主として働いている場合、報酬の内容によって源泉徴収の対象になることがあります。対象となる報酬がある場合は、請求書に源泉徴収額を記載しておくと、入金金額の確認がしやすく、確定申告にも役立ちます。源泉徴収の対象となる主な報酬は次のとおりです。
- 原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士などの報酬
- 映画・演劇・芸能などの出演料や報酬
なお、源泉徴収額の記載は義務ではありませんが、トラブル防止のために明記しておくのがおすすめです。
請求書作成のコツ

- 見やすいレイアウトに整える:請求書は原則として1ページに収め、フォントサイズや行間をそろえて読みやすくします。企業ロゴやブランドカラーを入れると、信頼感と統一感が生まれます。
- 早期支払いのインセンティブを設ける:期日より早い支払いに対して割引や特典を設けると、支払いが滞りにくくなります。たとえば「請求日から10日以内の支払いで3%割引」といった形です。
- ひな型(テンプレート)を用意する:毎回ゼロから作るのではなく、何度も使えるテンプレートを作成しておくと、ミスを防ぎ効率が上がります。
- 定期的な取引には自動請求を検討する:継続的なサービス提供や定期購入がある場合は、定期請求書を自動で発行できる仕組みを導入すると便利です。
- Shopifyアプリで自動化する:Shopify App Storeには、注文データから自動的に請求書を作成できるアプリが多数あります。自動発行の機能を活用すれば、発行漏れや手入力ミスを防ぎ、作業時間を大幅に削減できます。
- 支払方法を複数用意する:クレジットカード、デビットカード、銀行振込、スマホ決済、分割払いなど、顧客の利便性に合わせた多様な支払方法を用意しましょう。
いろいろな種類の請求書と請求書に似た書類

いろいろな請求書
- 見積もり兼請求書
- 仮請求書(概算請求書)
- 前受金請求書(着手金請求書)
- 中間前払金請求書
- クレジットノート(返金・値引き伝票)
- デビットノート(追加請求書)
- プロフォーマインボイス(仮送り状)
- コマーシャルインボイス(商業送り状)
見積もり兼請求書
見積もりの内容をそのまま請求書として発行する形式です。金額や条件が確定している取引で便利に使えます。
仮請求書(概算請求書)
最終金額が確定する前に概算で発行する請求書です。制作業務や長期プロジェクトなど、段階的に請求を行う場合に適しています。
前受金請求書(着手金請求書)
作業開始前に代金の一部または全額を請求する際に発行します。契約成立を確実にし、発注後のキャンセルリスクを減らす目的で使用されます。
中間前払金請求書
建設業や長期プロジェクトなどで、進行状況に応じて代金を分割して請求する際に使われます。発注者・受注者双方のキャッシュフローを安定させる効果があります。
クレジットノート(返金・値引き伝票)
返品や値引きなどにより、過去の請求金額を減額する際に発行する書類です。帳簿上の修正や消費税処理において重要な役割を果たします。
デビットノート(追加請求書)
取引内容の変更などで、追加料金や差額を請求する際に発行する書類です。過去の請求書を訂正する目的で使用されます。
プロフォーマインボイス(仮送り状)
国際取引で、見積もりや通関の手続きに使用される書類です。正式な請求書ではなく、商品の価格や数量を事前に提示する目的で使われます。
コマーシャルインボイス(商業送り状)
輸出入取引で使用される正式な商業請求書です。輸出品の通関申告や関税計算に必要で、輸出者・輸入者の情報や商品の明細を正確に記載します。
請求書に似た書類
見積書
見積書は、取引前に商品やサービスのおおよその金額を提示するための書類です。契約前の参考資料として使われ、請求や支払いの法的拘束力はありません。
発注書
発注書は、購入者が取引を依頼するために発行する書類です。取引内容や納期、納品方法を明示しておき、販売者が納品後に請求書を発行する流れになります。
納品書
納品書は、商品やサービスの納品が完了したことを証明する書類です。金額は記載しない場合もあり、請求書や領収書とセットで扱われることが多いです。
領収書
領収書は、代金を受け取った証拠として発行される書類です。販売者が発行します。支払いが完了した後に発行され、会計管理や経費精算に使われます。
支払伝票
支払伝票は、顧客がその場で支払った取引を記録するための簡易書類です。現金決済など即時支払いの証拠として使われ、後払い取引で使う請求書とは目的が異なります。
まとめ
請求書は、代金を請求するだけでなく、取引の証拠・帳簿付け・税務対応・経営判断を支える基盤です。また、インボイス登録事業者である場合、登録番号や税率区分などの要件を満たした適格請求書を正しく発行・保存することが、取引先の仕入税額控除と自社の信頼確保につながります。電子取引が増える今は電子帳簿保存法の要件も押さえ、データで安全に保管することが欠かせません。
作成ミスを防ぎ、支払いを滞りなく進めるために、テンプレート整備や自動発行、支払条件の明確化を進めてください。クラウド会計やShopifyの請求書ツールを活用すれば、記載漏れの防止、送付・保存の自動化、入金管理の効率化まで一気通貫で実現できます。今日から運用フローを整え、見やすく正確な請求書でキャッシュフロー管理と取引の信頼性を高めていきましょう。
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よくある質問
請求書とレシートの違いは?
請求書は、購入者に商品やサービスの代金を請求するために使いますが、レシートは商品やサービスの販売取引が完了したことを確認するために使います。請求書は支払いの前に発行しますが、レシートは支払いの後に発行します。
見積書・納品書・請求書の違いは?
見積書は「取引前」に金額を提示する書類、納品書は「納品時」に商品を渡した証明書、請求書は「取引後」に代金を請求するための書類です。これらをセットで管理すると、取引の流れを正確に記録できます。
個人事業主でもインボイス登録する必要はありますか?
個人事業主であり、免税事業者であれば、インボイスを発行する義務はありません。ただし、取引先が課税事業者の場合、あなたがインボイス登録をしていないと、取引先は仕入税額控除を受けられません。結果的に取引先の負担が増え、取引条件の見直しや単価調整につながる可能性もあります。今後も取引を続ける予定がある場合は、適格請求書発行事業者として登録しておくと信頼につながるでしょう。
2024年から電子帳簿保存法で何が変わった?
2024年1月から猶予期間が終了し、電子データで受け取った請求書や領収書は紙に印刷して保管することが認められなくなりました。メール添付のPDFやクラウド請求書も電子取引にあたるため、データのまま保存する必要があります。保存時は改ざん防止措置や検索機能など、法律で定められた条件を満たす必要があります。
文:Taeko Adachi





