社会課題の解決とビジネスを両立させるモデルとして、近年注目を集めているのがソーシャルエンタープライズ(社会的企業)です。
新しいビジネスモデルを構築したい企業やアントレプレナーにとって、ソーシャルエンタープライズは、社会的価値を生み出しながらブランドを立ち上げたり、企業の信頼を高めたりできる手段の一つです。
この記事では、ソーシャルエンタープライズの定義や特徴、そして日本における代表的な事例を紹介します。社会貢献と事業成長を両立させたい企業や起業家は参考にしてください。
ソーシャルエンタープライズとは?

ソーシャルエンタープライズとは、ビジネスの仕組みを活用して社会的な課題を解決することを目的とした企業を指します。一般企業が利益の最大化を主目的とするのに対し、ソーシャルエンタープライズは社会問題の解決を優先します。
ただし、その定義は国や組織によって異なります。たとえば、日本の内閣府は、2015年に社会的企業を対象にした調査を行う際、ソーシャルエンタープライズを次の7つの条件に当てはまるものとしています。
- ビジネスを通じて社会的課題の解決・改善に取り組んでいること
- 事業の主目的が利益の追求ではなく、社会的課題の解決であること
- 利益を出資者や株主への配当ではなく、主に事業へ再投資していること(営利法人の場合)
- 配当される利益が全体の50%以下であること(営利法人の場合)
- 事業収益の合計が、収益全体の50%以上であること
- 事業収益のうち、公的保険(医療・介護など)からの収益が50%以下であること
- 補助金、会費、寄付を除く収益のうち、行政からの委託事業収益が50%以下であること
ソーシャルエンタープライズの特徴

- 営利活動を行う:非営利団体やボランティア活動と異なり、企業として営利を目的にした活動も行います。
- 利潤の最大化を目的としない:一般企業のように利益の最大化を追求するのではなく、社会的課題の解決を主目的としながら、持続可能な範囲で利益を確保することを重視します。
- 事業そのものが社会問題の解決につながる:一般企業がCSR(企業の社会的責任)活動でサステナブルな取り組みを行うのとは異なり、社会的企業ではビジネスモデルそのものが社会課題の解決を目的として設計されています。
- 補助金や寄付だけに頼らない:社会的企業は、補助金や寄付といった外部資金に依存せず、自らの事業収益によって活動を持続させることを目指します。
ソーシャルエンタープライズの種類

ソーシャルエンタープライズは、会社の形態や規模を問わず設立できます。
ソーシャルエンタープライズの種類には以下のようなものがあります。
一般的な株式会社は利益の株主還元を重視しますが、株式会社の形態をとるソーシャルエンタープライズは、ミッション達成を最優先の目的とし、その理念に共感する人々がステークホルダーになります。
ただし、NPO法人など非営利組織の場合、補助金や寄付が主な収益源となっている場合はソーシャルエンタープライズとはみなされないことが多いです。
ソーシャルエンタープライズのメリット

- 新しい需要を生み出せる:社会的価値を創出しながら市場の新しい需要を掘り起こすことができ、結果的に事業の持続性や企業価値の向上にもつながります。
- 自由度の高い事業アイデアを展開できる:社会課題を解決するためには、従来の業界構造や常識にとらわれない発想が求められます。そのため、新規事業を模索したいベンチャー企業やスタートアップにも向いています。
- 企業のブランド価値を高められる:社会的な使命を掲げて事業を行うことで、顧客や地域社会からの信頼を得やすくなります。結果として、企業イメージの向上だけでなく、クラウドファンディングなどの資金調達においても有利に働く場合があります。
ソーシャルエンタープライズのデメリット

- 収益と社会貢献の両立が難しい:社会的な使命を優先するあまり、収益構造が弱くなってしまうことがあります。社会的価値と経済的価値をどちらも満たすビジネスモデルの設計が重要です。
- 事業化までに時間がかかる:ソーシャルエンタープライズは既存の市場では扱われていない新しい分野や顧客ニーズを対象にすることが多いため、実現までに多くの検証と調整が必要になる場合があります。
- 社会的価値の評価が難しい:ソーシャルエンタープライズは、売り上げや利益だけで成果を測ることができず、どれだけ社会に良い影響を与えたかをステークホルダーへ伝える必要があります。その評価基準が曖昧だと、支援者や投資家に事業の価値を伝えにくくなります。
ソーシャルエンタープライズが取り組む課題とアイデア

ソーシャルエンタープライズが解決に取り組む社会問題は非常に多岐にわたります。以下はその一例です。
- 国際協力
- 教育格差
- 貧困
- 環境保全
- 福祉
- 少子高齢化
これらの課題は、地域、国、さらには個人レベルで存在しており、解決の余地があります。
たとえば、地方活性化や地産地消を促進する事業、引きこもりや学業についていけない子どもたちへの学習支援、特定の分野における情報格差の是正などのアイデアが考えられます。社会的に良いインパクトを与えながら経済活動を行うことができる事業アイデアを考えましょう。
社会的企業の取り組みの例
1. 株式会社LIFULL
株式会社LIFULLは、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というミッションを掲げ、暮らしに関わる社会課題の解決を目指す企業です。
主力サービスである不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME’Sは、全国の不動産情報を一元化することで、ユーザーが個別に不動産会社へ問い合わせを行う手間を省き、24時間いつでも多様な物件を比較・検討できる環境を実現しました。不動産会社にとっても、自社の物件を最新情報として全国のユーザーへ届けられるようになり、業界全体の情報格差解消に貢献しています。
また、自治体や地域企業と連携したLIFULL 地方創生やLIFULL HOME’S 空き家バンクでは、日本各地で深刻化する空き家問題の解消と地域活性化を推進しています。
2. 株式会社ユーグレナ
株式会社ユーグレナは、サステナビリティ・ファーストを企業理念に掲げ、環境と人の健康を両立させる社会の実現を目指すバイオテクノロジー企業です。
同社は、世界的な栄養不足やエネルギー問題をビジネスの力で解決することを目的として
栄養価の高い微細藻類ミドリムシの培養を行い、この素材をもとに、食品、化粧品、バイオ燃料など幅広い分野で事業を展開しています。
また、2014年からは社会貢献活動としてユーグレナGENKIプログラムを開始し、バングラデシュの子どもたちにミドリムシを使った栄養価の高いクッキーを届け、慢性的な栄養不足の改善と教育支援に取り組んでいます。
3. 株式会社ポケットマルシェ
株式会社ポケットマルシェは、生産者と消費者を直接つなぐオンライン市場「ポケットマルシェ」を運営し、食品ロスの削減と地域経済の活性化に取り組んでいます。
このプラットフォームでは、消費者が全国の農家や漁師から旬の食材を直接購入できるだけでなく、形や規格にとらわれない農水産物も販売対象としています。これにより、これまで市場に出せなかった規格外品や余剰品の販売機会を生み出し、地方生産者の安定収益とフードロスの削減を同時に実現しています。
4. 株式会社クラダシ
株式会社クラダシは、プラットフォーム「KURADASHI」を運営し、食品ロス削減に取り組んでいます。
食品ロス削減に賛同するメーカーから協賛価格で提供を受けた商品を販売し、消費者は通常の価格より大幅に安い価格で商品を購入できる仕組みです。これにより、売れ残りや規格外品が無駄に廃棄されることなく、食品ロスの削減に貢献し、環境への影響も軽減されます。
さらに、KURADASHIの売り上げの一部は、社会貢献活動団体に寄付される仕組みになっており、環境保護や動物保護を目的とする団体への支援を通じて、社会的課題の解決にも積極的に取り組んでいます。
まとめ
ソーシャルエンタープライズは、単に利益追求を目的とするのではなく、事業を通じて社会問題を解決することを最優先にする企業です。企業形態や取り組む領域を問わず、利益を生みながら社会的インパクトを創出します。
起業家にとっては、ソーシャルエンタープライズという選択肢は、ブランドの信頼向上や新たな市場の開拓といった大きなメリットをもたらします。しかし一方で、社会的課題の解決と収益の確保のバランスを取ることが難しいため、ビジネスモデルの設計や企業運営において高い柔軟性と創造力が求められます。
それでも、日本国内においてソーシャルエンタープライズの成功事例は増えてきており、今後ますます注目が集まることは間違いありません。特に、環境問題や福祉支援、地域活性化など、多くの分野で社会貢献をしながら経済活動を行う新しいビジネスが求められており、これからの時代において大きなビジネスチャンスとなるでしょう。
よくある質問
ソーシャルエンタープライズとは?
ソーシャルエンタープライズとは、ビジネスを通じて社会的課題の解決を目指す企業のことです。利益の最大化ではなく、社会的課題の解決を最優先としているのが特徴です。
ソーシャルエンタープライズと非営利団体の違いは?
ソーシャルエンタープライズと非営利団体は、収益の活用方法が異なります。非営利団体は利益を出すことを目的としていませんが、ソーシャルエンタープライズは利益を生み出し、その収益を社会問題解決のために再投資します。また、非営利団体は寄付や助成金に依存することが多いのに対し、ソーシャルエンタープライズは事業活動そのもので収益を得るため、持続可能な経済活動を行えます。
ソーシャルエンタープライズの日本企業の事例は?
日本におけるソーシャルエンタープライズの事例としては、以下のような企業があります。
- 株式会社LIFULL:不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」を運営し、不動産における情報格差の解消、業界の透明化を進めています。
- 株式会社ユーグレナ:ミドリムシを使った健康食品やバイオ燃料の開発に取り組み、栄養不足の解消やエネルギー問題の解決を目指しています。
- 株式会社ポケットマルシェ:生産者と消費者をつなげる「ポケットマルシェ」を運営し、食品ロスの削減と地域経済の活性化に取り組んでいます。
- 株式会社クラダシ:消費者が規格外品や余剰品を割安で購入できる「KURADASHI」を運営し、食品ロス削減や環境保護に貢献しています。
ソーシャルエンタープライズは稼げる?
ソーシャルエンタープライズでも十分に収益を上げることは可能です。社会課題の解決を目的としながらも、事業活動を通じて価値を提供し、利益を得る点では一般の企業と変わりません。むしろ、社会的な意義を持つビジネスほど顧客や投資家からの共感を得やすく、長期的な成長基盤を築きやすいという特徴があります。
文:Hisato Zukeran





