Shopify Japanは2025年10月29日(水)、コマース業界の事業者様を対象とした招待制カンファレンスイベント「Commerce Day Japan 2025」を開催しました。
「Challenge the Status Quo 〜AI時代のコマース再創造」をテーマに掲げ、激動のAIおよびAIエージェント時代にコマース業界がさらなる躍進を遂げられるよう、多角的な視点からさまざまな講演、ディスカッションが行われました。ここでは同イベントで実施された講演やパネルディスカッションの模様をレポートします。
OPENING KEYNOTE: Shopifyが示すAI時代のコマース進化に向けた挑戦の道筋
はじめにオープニングキーノートとしてShopify Japan カントリーマネージャーの代打として、シニアパートナーソリューションズエンジニア 岡村 純一が登壇し、「AIエージェント時代を切り拓く―Shopifyと描く新しいコマースの未来」をテーマに講演を行いました。

岡村は、AIの進化が消費者行動とビジネス運営を根底から変えつつある現状を踏まえ、企業が今まさにコマース変革の岐路に立っていると指摘しました。生成AIの年平均成長率が2028年までに84.4%にも達すると想定される中*、AIを活用する意欲は高いものの、実装にはギャップがあるという日本の事業者の現状を具体的なデータとともに示しました。さらに、AI時代のコマース環境においては、継続的な進化が求められ、パートナーとの協業によってイノベーションを加速させることが重要になります。
そのうえで、ShopifyのAI活用に対する姿勢を説明しました。「他社がAIによる人間のタスクの置き換えに注目する中、ShopifyはAIを人間の野心の偉大な倍増器と見なしています」という、Shopify創業者兼CEO Tobi Lütkeの言葉を引用し、ゴール指向のソフトウェア開発によってAIがユーザーの目標達成を支援するインテリジェントなパートナーになるという構想を説明しました。
続いて岡村は、Shopifyのビジョンについて語りました。Shopifyは20年以上にわたり「すべての人にとってコマースをより良くする」という一つの使命を追求し、コマースに注力してきました。そして、継続的に進化できる理由を「4つの柱」として次のように整理しました。
- イノベーションのスピード:半年ごとに150以上の新機能を追加し、14億ドルをR&D(研究開発)に投資
- インフラのスケール:毎分2億8400万リクエストを処理する比類なきパフォーマンス
- 拡大するネットワーク効果:チェックアウト成功率は競合比で最大36%高い
- 生きているエコシステム:数十万を超えるパートナーと1.6万のアプリが支える大規模なグローバルコマースコミュニティの中心
これらが相互に作用し、コマース業界全体の進化に貢献してきたと解説しました。
さらに、日本市場での取り組みとして日本企業による導入企業を紹介。Shopify Japanの現地チームやパートナーによる伴走支援が成果を上げていることを示しました。そして引き続き日本市場に注力し、現地のコマース発展に貢献していく姿勢を強調しました。
講演の最後に、コマースを「終わりのない進化のゲーム」と位置づけました。そして変化し続ける市場環境の中で、企業は挑戦を止めず、顧客とともに未来を築く姿勢が求められると強調。Shopifyは一つひとつのイノベーションを積み重ね、AI時代の新しいコマースの形を共創していくとし、変革の歩みを止めない重要性を訴えてセッションを締めくくりました。
PRODUCT UPDATES パート1:AIエージェント時代を支える3つのツールとChatGPT統合の実現
PRODUCT UPDATESの第1部では、Shopify Japan シニアパートナーソリューションズエンジニアの岡村 純一が登壇し、「Shopify AI革命」をテーマに講演を行いました。
岡村はまず、AIコマース時代における新たなインフラストラクチャとして「Commerce for Agents」を紹介しました。これは、AIエージェントがショッピング機能を提供するための3つの核となるツールで構成されています。
1つ目は「Shopify Catalog」です。
これはAI専用に構築された商品検索APIで、AIエージェントがShopifyの対象商品カタログ全体を検索できる仕組みです。数百万のブランドから数億点の商品にアクセスでき、リアルタイムで価格、在庫、画像情報が反映されます。Shopifyに商品を掲載するだけで自動的にカタログに追加され、設定や構成は一切不要です。
2つ目は「Universal Cart」です。
これは、AIエージェントが複数の会話や販売者にまたがって商品を追跡し、単一のカートに追加できる機能です。従来のカートと異なり、各販売者のビジネスロジック(割引、配送ルールなど)を維持したまま、複数のストアからの商品を統合管理できます。
3つ目は「Checkout Kit」です。
これは、販売者のカスタマイズとビジネスルールを保持したまま、AIプラットフォーム上でチェックアウトを提供するツールです。バンドルやサブスクリプションにも対応し、GDPR、CCPA、PCI DSS 4.0といった国際的なコンプライアンス要件もサポートします。Shopifyチェックアウトは他のプラットフォームと比較して最大36%高いコンバージョン率を実現しており、その強みをあらゆるAIプラットフォームで発揮できます。
続いて岡村は、2025年9月末に発表されたOpenAIとの公式パートナーシップについて解説しました。このパートナーシップにより、Shopifyの事業者・販売者はChatGPT内で直接商品を販売できるようになります。購入者はChatGPTで商品を検索し、チャット内で配送情報を入力し、Apple PayやGoogle Payなどで支払いを完了できます。注文は明確なアトリビューション情報とともにShopify管理画面に送信され、事業者・販売者は顧客との関係を所有し続けることができます。まもなく、対象となるすべての米国の事業者・販売者がこの機能を利用できるようになる予定です。

さらに、岡村はAI搭載アシスタント「Sidekick」についても紹介しました。Sidekickは管理画面のあらゆる部分に統合されており、データ分析、コンテンツ作成、業務自動化の3つの領域でチームの生産性向上に貢献しています。エンタープライズ管理ユーザーの約10人に1人が毎週Sidekickを使用しており、ユーザー1人あたりの利用回数も前四半期比で20%増加しています。
講演の最後に岡村は、今後も「イノベーション」「スケールのための合理化」「コンバージョン&収益化」という3つの柱に大規模な製品投資を続けていくことを強調し、セッションを締めくくりました。
※本セッションの詳細は、オンデマンドウェビナーとして近日公開予定です。
PRODUCT UPDATES パート2:グローバルコマースを下支えする堅牢なインフラとセキュリティ体制
PRODUCT UPDATESの第2部では、Shopify Japan シニアソリューションズエンジニアの林 ノブが登壇し、「インフラストラクチャとセキュリティ」をテーマに講演を行いました。
林はまずインフラストラクチャについて解説。Shopifyが100万以上の企業に採用され、累計55億件を超える注文と1兆ドル以上の取引を処理している実績を示しました。また、北米と欧州に複数のデータセンターを展開し、冗長化とフォールトトレランス機能(※システムの一部が故障しても、システム全体で動作を維持する能力)によって高い稼働率と信頼性を維持していること、Cloudflareとの提携により世界のインターネット接続人口の99%が100ミリ秒以内でShopifyのネットワークにアクセスできる環境を実現していることも強調されました。
さらにDDoS攻撃やボット対策、効率的なCDNによるデータ配信の最適化など、エッジレベルでの高速かつ安全な処理を可能にし、2024年のブラックフライデー・サイバーマンデーの4日間では処理されたデータベースクエリが10兆、データベース書き込みが1兆を超えたことも明かされました。
続けて林は、セキュリティのパートとしてShopifyの理念である「共有された信頼(Shared Trust)」を中心にしてプラットフォーム全体で信頼性を維持する取り組みを紹介しました。数百名規模のセキュリティチームがグローバルに監視と改善を行い、サービス提供に必要な範囲に限定してデータ処理が行われています。顧客自身がデータを所有・管理できる仕組みを採用し、Shopifyはその保護のために多層的な仕組みを整えています。多段階認証(MFA)の適用、リアルタイムでの監査API、権限ベースのアクセス制御などにより、プラットフォーム全体のセキュリティを高めています。
またコンプライアンス体制についても、「SOC 1」「SOC 2」「SOC 3」「PCI DSSレベル1」といった国際的なセキュリティ認証を取得し、四半期ごとの外部スキャンで脆弱性を確認するなど、技術基盤と運用の両面から透明性と信頼性を確保していることも解説されました。
※本セッションの詳細は、オンデマンドウェビナーとして近日公開予定です。
Special Talk#1:デジタル会員証からパーソナライズ配信まで進化するアプリ戦略
Commerce DayではShopifyパートナーの特別講演も開催されました。まずは「Salomonに聞く、顧客と繋がるデジタル戦略 〜アプリ×ECで実現するブランド体験〜」と題し、株式会社ヤプリ 執行役員CCOの金子 洋平 氏と、アメアスポーツジャパン株式会社 サロモンCRM担当の中園 真理亜 氏が登壇。アプリとECを融合した顧客体験向上の取り組みを紹介しました。
ヤプリはノーコードでアプリを構築できるプラットフォーム「Yappli」を提供しており、同プラットフォームは900社以上の企業が導入しています。Yappliによるアプリが、単なる情報発信の場から「顧客体験を創出するブランドの接点」へと進化していると説明しました。このYappliを利用しているのが「サロモン」ブランドです。
サロモンは2023年10月、メンバーシッププログラム「S/PLUS」の開始とともに、Yappliによる公式アプリを提供。メンバーはサロモン製品の購買やイベント参加でマイルを貯め、ステージに応じた特典を得られます。アプリではニュースや店舗からのPUSH通知、デジタル会員証機能などを通じて、特にロイヤル顧客との関係を深めています。
さらに、ShopifyとYappliのデータ連携により、購買履歴や行動データを活用したパーソナライズ配信を実現。来店促進や再購買につながる施策を展開しています。ECとアプリの統合を通じて、サロモンは購入体験からブランド体験へと顧客接点の価値を高めています。
Special Talk#2:信頼に基づくデータ活用と4Rの原則で実現するECパーソナライズ
次の特別講演では、Braze株式会社 日本市場製品責任者の新田 達也 氏と、Shopify Japan 営業責任者 香山 克彦が登壇し、「データが繋がる。体験が変わる。ECパーソナライズの現在地」をテーマに、対談形式でセッションを展開しました。
セッション冒頭では、チャネルやデバイスの分断による「残念な顧客体験」がブランド離れの要因になっていることが指摘され、信頼に基づくデータ活用の重要性が強調されました。また、ビジネス成長のカギは「エンゲージメント強化」にあり、マーケターはトレンドに応じた視点が必要であるとされました。さらに、顧客との信頼関係構築にはデータの透明性と同意ベースの活用が不可欠であるとしています。そのためにもブランドは「顧客データをどう使うか」ではなく、「どんな価値を返すか」を示す必要があるとされました。
Brazeでは、顧客データをもとに「Right User」「Right Timing」「Right Content」「Right Channel」という「4Rの原則」で最適な体験を設計。さらに「Braze AI」がコピー生成、購買予測、配信最適化などを支援し、マーケティングの効率化と精度を高めています。この施策により、Braze導入企業は「ROI(3年トータル)840%」「解約率50%減」「工数2200時間削減」を実現したと報告され(Forrester社調査による)、データとAIの連携がEC成長の新たな鍵であることが強調されました。
Panel Discussion #1:バーチャルが創る新しい購買体験―VTuberグループhololiveに学ぶファンエコノミーの未来
続くパネルディスカッションでは、COVER株式会社 執行役員 前田 大輔氏とShopify Japan シニアカスタマーサクセスマネージャー 森谷 知弘が登壇。「バーチャルが創る新しい購買体験 ~hololiveが築くファンエコノミーの未来」をテーマに、業種を問わず適応できるインサイトが共有されました。
COVERが運営するV Tuberプロダクション hololiveは、国内外に多数のファンが存在し、デジタル時代の「推し活」や「ファンエコノミー」の象徴となっています。
Entertainment Flywheelと称した配信・グッズ・イベントを一体化した購買体験が紹介されるとともに、『モノではなく体験を買っていただく』という思想や、Shopifyのコマース基盤での取り組みについて語られました。「ファンに届ける」、「グローバルで戦う」、「Shopifyをハックする」について、Shopifyを活用したグローバルEC展開などが紹介されました。
Panel Discussion#2:アパレルリーダー6社が語るビジネスモデル変革とD2C軸のプラットフォーム戦略
次のパネルディスカッションでは、「現状維持の終焉」をテーマに、アパレルリーダー6名が登壇。モデレーターに株式会社ヘラルボニーの岸 武洋氏を迎え、以下のメンバーで業界の変革を語るパネルディスカッションが行われました。
- 株式会社三陽商会 事業統轄本部マーケティング&デジタル戦略本部 ウェブビジネス部長 斉藤 裕介氏
- 株式会社ティンパンアレイ ECグループゼネラルマネージャー兼商品グループゼネラルマネージャー 桜庭 邦洋氏
- 株式会社ビームス マーケティング本部本部長 山崎 勇一氏
- 株式会社ユナイテッドアローズ OMO本部 本部長 岩井 一紘氏
- ヤマトインターナショナル株式会社 執行役員 マーケティングコミュニケーション部長 長尾 享諭氏
パネルディスカッションでは、アパレル業界におけるコマース変革の可能性、D2Cを軸としたプラットフォーム戦略、グローバル展開での顧客体験向上などが議論され、各社の挑戦が具体的に語られるとともに、「挑戦を続ける姿勢こそが業界の未来を拓く」というメッセージが共有されました。
100万オーダー達成を表彰するMilestone Award授賞式で9サービスがGold受賞
最後に、Milestone Award授賞式が開催されました。100万オーダーを達成した事業者を表彰するGold Milestone Awardを受賞した9サービスを運営する皆様をお迎えしました。
会場にお越しいただいた各担当者様には、授賞式にて盾が手渡されました。
AI時代のコマース再創造に向けて
Commerce Day Japan 2025では、コマースにおけるAI活用から、ブランド戦略、顧客エンゲージメントまで、多様な視点からコマースの未来が議論されました。ご参加いただいた事業者様、パートナー様からは、Shopifyの最新機能や取り組みについて具体的な活用イメージが湧いたとのお声をいただきました。
本イベントでは、業界の垣根を越えた多様な議論が展開され、パートナーや事業者同士の新たな繋がりも生まれました。変化のスピードが増すAI時代において、Shopifyは単なるプラットフォーム提供者ではなく、事業者様やパートナー様とともに挑戦し、未来のコマースを共創する存在でありたいと考えています。本イベントで交わされた議論や出会いが、皆様の新たな一歩を後押しする機会となることを期待しています。
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Shopify導入・AI機能活用に関するご相談
Commerce for AgentsやSidekickなど、本イベントで紹介されたAI機能の貴社ビジネスへの最適な導入方法や、AI時代のコマース基盤構築について、お気軽にご相談ください。
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*出典: IDC Japan, 2024





