DTC(Direct-to-Consumer)コマースが隆盛を極める一方で、その市場規模を遥かに上回る数十兆ドル規模の巨大市場が存在します(B2B EC市場調査)。それが、メーカーや生産者から商品を仕入れ、小売業者に販売する「卸売業」です。消費者への直接販売とは異なり、一度に大量の商品を企業相手に販売するこのビジネスモデルは、多くの起業家にとって非常に収益性の高いビジネスチャンスとなり得ます。
しかし、いざ卸売業に参入しようとしても、「どのような商品を扱うべきか?」「販売量はどのくらい見込めば良いのか?」「利益率はどう設定すれば?」といった数々の疑問が浮かび、何から手をつければよいか分からなくなってしまう方も少なくないでしょう。特に、事業を始めたばかりの段階では、その複雑さに圧倒されてしまうかもしれません。
この記事では、そうした課題を乗り越え、卸売業者として成功するための一連のプロセスを、具体的な10のステップに分けて体系的に解説します。BtoB(Business-to-Business)事業を円滑に進めるためのヒントと合わせて、あなたのビジネスを成功へと導きます。
卸売業者とは?
卸売業者とは、自社で商品を製造するか、あるいはメーカーから商品を仕入れ、その商品を他の小売業者に、希望小売価格よりも低い価格で大量に再販売する事業者のことを指します。
卸売業者になるための10のステップ
卸売業を始めるための具体的な手順を10のステップで見ていきましょう。
1. ニッチと販売商品の決定
まず自問すべきは、「自社の商品は、他の小売業者が自店の顧客に販売したいと思うようなものか?」ということです。小売業者の既存の商品ラインナップに自然に溶け込めるか、あるいは新たな魅力を加えられるかが重要です。商品の独自性(例えば、特別な製造方法、ユニークな原材料の調達先など)を明確にし、それをセールスポイントとして小売業者に伝えられるように準備しましょう。
2. ターゲット市場の調査
どのようなビジネスモデルでも同様ですが、成功する卸売業者は、ターゲットとする市場を明確に定めた事業計画を持っています。百貨店のような大手小売業者を相手にするのか、それとも専門的なブティックのような小規模な販売店をターゲットにするのかを決定しましょう。大手小売業者は取引のルールが厳格な場合が多く、リスクも高いため、事業を始めたばかりであれば、小規模な小売業者との提携から始めるのが賢明かもしれません。
3. 初期費用と利益率の計算
事業運営にどれくらいの資金が必要で、初年度の利益率がどの程度になるかを計算します。初期費用は、最初の在庫、倉庫設備、ウェブサイト構築などのテクノロジー投資によって大きく変動しますが、数万ドルから数十万ドルに及ぶこともあります。まずは自社の状況に合わせておおまかなモデルを構築し、必要な初期投資額を把握しましょう。利益率については、一般的に卸売業界では15%〜30%が目安とされています。
4. 必要なライセンスの取得
卸売業を運営するには、専門の事業ライセンスが必要です。商品を他の事業者に再販するための「販売業許可」などがそれに当たります。例えば、中古品を扱うなら「古物商許可」、酒類なら「酒類販売業免許」など、扱う商材によって必要な許認可は多岐にわたります。これらのライセンスは、あなたが正規の商品を扱う信頼できる卸売業者であることを証明するものです。事業を展開する地域や国によって必要なライセンスは異なるため、管轄の行政機関(保健所、税務署など)に確認し、申請手続きを行いましょう。
5. 法的・規制要件の理解
最初の商品を出荷する前に、国や地域、そして業界特有の規制をすべてクリアしなければなりません。例えば、食品を扱う場合は食品衛生法に関する許可、化粧品であれば医薬品医療機器等法(薬機法)といったように、扱う商品カテゴリによって遵守すべき法律が異なります。これらの要件を見逃すと、出荷の遅延や罰金につながり、利益を損なう可能性があるため、事前の確認が不可欠です。
6. サプライヤーの特定
高品質な商品を競争力のある価格で安定的に供給してくれる、信頼できるサプライヤーを見つけることは、卸売業の成功に不可欠です。サプライヤーの業界での実績、他の卸売業者からの評判、価格設定、そして最低発注数量(MOQ)などを慎重に調査しましょう。国内外の展示会に足を運んだり、業界専門のオンラインプラットフォームを活用したりするのも有効な手段です。特に事業開始当初は、MOQが柔軟なサプライヤーと提携することがキャッシュフローの安定につながります。
7. サプライヤーとの条件交渉
サプライヤーとの取引条件は、あなたの利益率と事業運営に直接影響します。支払い条件(支払いサイクル)、配送と物流の取り扱い、返品や破損品のポリシーなど、契約を結ぶ前にすべての詳細を確認し、納得できる条件で合意することが重要です。発注量に応じた割引や、特定の地域での独占販売契約など、交渉の余地は十分にあります。理想的な条件をまとめたタームシート(条件概要書)を作成し、交渉に臨みましょう。
8. オンラインでのビジネス基盤の構築
かつて卸売販売は複雑で手作業が多いものでしたが、現在ではEコマースプラットフォームを活用することで、BtoBの顧客にもDTCのような快適な購買体験を提供できます。Shopify PlusのようなBtoB機能が統合されたプラットフォームを利用すれば、顧客ごとの卸売価格の設定、最低発注数量(MOQ)の適用、支払い条件の割り当てなどを、DTCと同じ管理画面で効率的に行うことが可能です。
9. 在庫管理システムの導入
卸売業における在庫管理は非常にスピーディーです。在庫回転率を常にモニタリングし、動きの遅い商品は割引などで早めに販売し、倉庫のスペースを圧迫しないようにしましょう。ABC分析(商品を売上への貢献度でランク付けする手法)を用いて、売れ筋商品(Aランク)の在庫を重点的に管理するのも効果的です。DTCとBtoBの在庫を一元管理できる統合コマースプラットフォームは、販売機会の損失や過剰販売を防ぐ上で強力なツールとなります。
10. 事業の立ち上げとマーケティング
適切な小売業者に自社のビジネスを知ってもらうことが、成長の鍵です。ウェブサイトの構築に加え、小売業者がダウンロードできる詳細な商品カタログを用意しましょう。高品質な商品画像、詳細な説明、卸売価格情報を記載することで、問い合わせ前の段階で小売業者の関心を引くことができます。補完的な商品を扱う他社との提携、既存顧客への紹介プログラムの提供、Eメールマーケティングなども有効な戦略です。
卸売業を成長させるための7つのヒント
事業を軌道に乗せた後、さらに成長を加速させるためのヒントをいくつか紹介します。
- 大量注文に対応できるチームを構築する: 受注量の増加に合わせて、梱包や発送のプロセスを効率化、あるいは外部委託(3PLなど)を検討しましょう。
- サプライヤーや小売業者との関係を築く: 一度の販売で終わらせず、顧客の反応をヒアリングするなど、継続的なコミュニケーションで信頼関係を深めましょう。
- セルフサービスオプションを提供する: 小売業者が24時間いつでもオンラインで発注やアカウント管理ができるポータルサイトを用意することで、利便性が向上し、注文頻度の増加が期待できます。
- 卸売マーケットプレイスに参加する: 新規顧客開拓のチャネルとして、オンラインの卸売マーケットプレイスへの出店も有効です。
- 適切な卸売価格を設定する: 小売業者が利益を確保できるだけの割引率を提供しつつ、自社の利益もしっかりと確保できる、持続可能な価格設定が重要です。
- オムニチャネル体験を創出する: ウェブサイト、展示会、営業担当者など、すべての販売チャネルで一貫した購買体験を提供しましょう。
- 優れたカスタマーサービスを提供する: 迅速で専門的なサポート体制は、小売業者との長期的な信頼関係の基盤となります。
まとめ
卸売業への参入は、決して簡単な道のりではありません。しかし、本記事で紹介した10のステップに従って入念な準備と戦略的な計画を立てることで、この巨大で収益性の高い市場で成功を収めることは十分に可能です。
特に、ShopifyのようにDTCとBtoBの機能を一つのプラットフォームで提供するソリューションを活用すれば、複雑な卸売業務を効率化し、顧客である小売業者に優れた購買体験を提供することができます。まずは最初の一歩として、自社の商品と市場を深く理解することから始めてみてはいかがでしょうか。





