キャッシュフローを管理する際、ACH送金にどれくらい時間がかかるのか気になることがあるかもしれません。この種の電子決済は、郵便サービスと同様に自動決済機構(ACH)ネットワークを介して処理されます。
郵便サービスは、膨大な郵便物を時に長距離にわたり配送する、手頃で信頼性が高く秩序立った仕組みです。自動決済機構ネットワークは、電子資金移動(EFT)の世界における「郵便サービス」に相当し、個々のACH取引は郵便物にたとえられます。
郵便局が定められた集荷・配達時間に郵便物をまとめて処理するのと同様に、ACHネットワークも送金リクエストをバッチで処理します。この仕組みにより、他の電子資金移動手段と比べると処理時間はやや長くなるものの、ACHはコスト効率に優れた安全な資金移動手段を提供します。
このガイドでは、一般的なACH送金の処理時間に加え、この種の電子決済を利用する際に押さえておきたい規則や規制について解説します。
自動決済機構(ACH)とは?
自動決済機構(ACH)は、銀行間の電子決済を処理するデジタルネットワークです。ACHネットワークは、NACHA(全米自動決済機構協会)によって運営されており、NACHAは米国内の約1万1,000の金融機関と連携する501(c)(6)の非営利団体です。
ACH送金と電信送金の比較
ACH送金と電信送金はどちらも電子決済手段ですが、同じものではありません。主な違いは次のとおりです。
- ネットワーク:AACH送金はACHネットワークを使用します。電信送金はFedwire Funds Serviceなどのネットワークを利用します。
- 速度:米国内の銀行間でのACH送金は、バッチ処理のため1〜3営業日かかります。米国内の電信送金はより高速で、銀行から銀行へ直接送金され、数分〜1営業日で処理されます。
- 頻度:ACHは給与支払い・定期支払いなどの頻繁な電子送金に広く使われますが、一回限りの支払いにも利用できます。電信送金は通常、高額取引や時間的制約のある取引など、一回限りの支払いに適しています。
- 取消可能性:エラーや不正の疑いがある場合、ACH取引は取り消しが可能で、企業にとって柔軟性があります。電信送金は通常最終決済であり、処理後の取り消しはほぼ不可能です。
- 国際送金:ACHと電信送金のいずれも国際的に利用される場合がありますが、ACHは統一的なグローバル決済網がないため、国や金融機関によっては利用が難しいことがあります。
- コスト:ACH送金は一般に、電信送金の手数料0〜50ドル(約7,500円)よりもコスト効率に優れます。
ACH送金にかかる時間は?
ACH送金は通常、完了まで1〜3営業日かかります。追加料金を支払えば、当日処理のオプションを利用できる場合もあります。取引内容に誤りがなく、銀行の締切時刻までに依頼を提出すれば、処理はよりスムーズに進みます。
ACH取引には「ACHデビット」と「ACHクレジット」の2種類があり、NACHAはそれぞれに異なる処理速度を定めています。
ACHクレジット取引
ACHクレジット取引は、発信預金金融機関(ODFI:送金側の銀行)の口座から、受信預金金融機関(RDFI:受取側の銀行)の口座へ資金を移す方式です。処理は2営業日以内に完了する必要があります。ACHクレジット取引の例として、給与の直接振込があります。
ACHデビット取引
ACHデビット取引は、RRDFI(受取側の銀行)の口座からODFI(送金側の銀行)の口座へ資金を引き落とす方式です。処理は1営業日以内に完了する必要があります。ACHデビット取引の例として、公共料金の定期自動支払いがあります。
RDFIは、デビット対象の銀行口座に十分な残高があるか確認するため、取引を1〜2営業日追加で保留することがよくあります。この期間中、銀行側では取引が「保留中」と表示される場合があります。
この確認プロセスにより、ACH送金の総所要時間は平均1〜3営業日となります。多くの金融機関では、追加料金を支払えば、当日処理のACHも利用できます。
ACH送金時間に影響する要因
ACH取引の種類は、送金時間に影響する要因のひとつです。その他の要因は次のとおりです。
- 送金開始時刻:銀行の締切時間後や営業時間外に当日資金移動を要求した場合、受取人の口座に表示されるのは翌営業日になる可能性があります。
- 週末と祝日:週末や祝日にACH送金を開始した場合、銀行は次の営業日まで処理しません。
- 限度額:銀行は1日または1取引あたりの送金可能額に制限を設けています(通常1,000〜25,000ドル)。制限を超える複数回または大額の取引は、送金を遅延させる可能性があります。
- 支払い返戻:残高不足、口座番号の誤り、口座閉鎖などがあると、支払いが成立せずACH送金が遅延することがあります。
ACH送金の費用は?
ACH送金の手数料は0〜10ドル(約0〜1,500円)の範囲で、多くは約40セント(約60円)に収まります。手数料は銀行や以下の要因によって決まります。
- 速度:当日ACH送金には追加料金がかかります。
- 取引の種類:ACHデビットはACHクレジットよりも高額になる場合があります。
- 月額料金:定期ACH取引を設定する場合、月額料金の支払いが必要な場合があります。
- 設定料金:定期ACH取引の設定時に、一度限りの設定料金がかかる場合があります。
多くの中小企業は、B2BやB2Cの取引を処理する決済処理サービス(ShopifyペイメントやSquareなど)を利用しています。第三者の決済処理業者が取引コストを定めることが多く、一般的なACH手数料は総取引額の0.8%〜1.5%程度です。
ACH送金の仕組み
ACH送金は複数の段階を経て処理されます。所要時間は、取引の種類(標準のACHクレジットは翌営業日、ACHデビットは1〜3営業日)、関係金融機関のスケジュールや方針、依頼の提出時刻によって変動し、最短1時間〜最長2営業日ほどかかる場合があります。
ACH送金プロセスの概要は次のとおりです。
1. 開始:送金者がクレジットまたはデビットの送金を開始します。
2. バッチ処理:発信金融機関(ODFI)が、ほかのACH取引とあわせてバッチ処理します。
3. 送信:バッチ処理された取引は、営業日中の定時(米国東部標準時、午前6時/正午/午後4時/午後5時30分/午後10時)にACHネットワークへ送信されます。提出時刻によって送信タイミングが決まり、たとえば営業日の午前9時に依頼すれば数時間以内に送信されますが、金曜の午後6時提出だと次の営業日まで送信されない可能性があります。
4. 受信:CHオペレーター(連邦準備制度またはElectronic Payments Network)がバッチを受け取り、仕分けして受信金融機関(RDFI)に回付します。ACHネットワークは営業日に5回、受信側へ取引を提出します(完了までに1営業日)。
5. 処理:受信銀行が取引を処理します。デビットされる口座の残高確認のため、入金先に反映する前に資金を一定期間保留する金融機関もあります(完了まで1〜2営業日の場合があります)。
6. 入金:ACHの資金が受取口座に入金されます。
ACH送金の制限
ACH送金は効率的で安全、かつ低コストですが、すべての取引に最適とは限りません。理由は次のとおりです。
- 処理時間:ACHはバッチ処理のため、受取口座に反映されるまで通常1〜3営業日かかります。一般的に、電信送金やクレジットカード、ATM取引よりも時間を要します。
- 国際的に常に互換性があるわけではない:ACH資金を海外口座に入金できる場合もありますが、すべての国がACHを受け入れているわけではありません。その場合は電信送金や別の決済手段が必要になります。
- 送金限度額:一部の銀行では、日次・週次・月次、または取引ごとにACHの上限額を設けています。自社の運用に必要な送金が可能か、事前に銀行のポリシーを確認してください。
ACH送金のルールと規制
ACH送金を処理する前に、以下の規制を確認してください。
NACHAガイドライン
全米自動決済機構協会(NACHA)は、すべてのACH取引を監督し、企業が遵守すべき電子決済の規則を執行する機関です。
NACHAのルールブックは網羅的で、次のような事項に関するガイダンスが含まれています。
- ACH決済を処理するための、顧客からの明示的な許可の取得
- 支払いスケジュール変更時の事前通知の提供
- サブスクリプションの迅速な解約対応
NACHAのACHガイドラインに違反した場合、月額最大50万ドル(約7,500万円)の罰金が科される可能性があります。事業でACH決済を利用する前に、必ず該当文書に目を通してください。
承認要件
顧客のACH決済を処理する前に、顧客はACH承認リクエストを提出する必要があります。フォームには、少なくとも次の項目を含めてください。
- 住所や電話番号などの会社情報
- 受取人名、銀行口座番号、ルーティング番号
- 取引の種類
- 支払い金額
- 取引の頻度と、今後のデビットに関する許可
- 利用規約
- 署名
一見すると、このフォームは顧客の離脱を招きかねない余計な手順に思えるかもしれません。しかし、支払いを処理する前に顧客から明示的な同意を得ることが不可欠です。承認文書は、顧客が適切に許可を与えたことを示す証跡となります。
消費者保護法
承認のない決済が行われた場合、ACH決済において消費者は保護されます。想定されるケースは次のとおりです。
- 顧客が決済を承認していない(または承認を取り消している)
- 合意した時期より早く口座から引き落とされた
- 銀行から引き落とされた金額が、当初の承認額を上回っている
顧客が明細書の受領から60日以内に未承認の決済を銀行へ報告した場合、銀行は当該金額を返金しなければなりません。銀行はその後、販売者から資金の回収を試みます。
詐欺防止対策
詐欺は、ACHの仕組みを悪用して不正に資金を取得することで発生します。データの窃取、フィッシング、アカウント乗っ取りなどが代表的な例です。
ACH詐欺のリスクを抑えるには、二要素認証によるログイン保護、決済情報の厳格な確認、脅威の見分け方に関するチーム研修など(ただし、これらに限定されません)の対策を講じましょう。
記録保持とコンプライアンス
ACHコンプライアンスとは、事業者がNACHAルールおよび関連法令を遵守することを指します。記録保持は、この遵守状況を示すうえで重要で、各取引の証跡を残すことで、詐欺や返金などの争議解決にも役立ちます。
EコマースにおけるACH送金の主な用途
ACH送金は人気のある決済手段のひとつです。2025年第2四半期には、取引額が5%増加し、87億ドル(約1兆3,050億円)に達しました。以下は、EコマースにおけるACH送金の主な用途です。
定期請求とサブスクリプション
保険会社や公共料金事業者、製品サブスクを提供するブランドは、ACH送金をよく利用します。定期支払いを設定できるため、企業はスケジュールに沿って手作業で決済する必要がありません。顧客はあらかじめ、口座からの引き落としに同意しています。
ベンダー支払い
ACHは、電信送金やクレジットカード決済と比べて決済処理手数料が低く、大口の取引に適しています。請求書の支払いにACHを使えば、紙の小切手よりもサプライヤーへの資金到着が速い点もメリットです。
給与処理
給与は毎月の所定日に支払われます。ACHで処理すれば、手動での振込より時間を節約でき、自動化により従業員の口座へ正確な金額が着金します。毎回、期日に満額が支払われることは、従業員のモチベーション維持にも有効です。
顧客返金
ACH決済は安全で追跡もしやすいため、返金方法として人気があります。郵送中の小切手紛失や、顧客がギフトレシートをなくすといったリスクもありません。商品購入に使用された顧客の銀行口座へ、資金を直接返金できます。
オンライン購入の直接デビット
ACH決済なら、顧客はオンライン購入のたびにクレジットカード情報を入力する必要がありません。入力ミスや有効期限切れによる決済失敗のリスクを避けられ、あらかじめ取得した銀行口座情報も基本的に変更されません。
ACH送金にかかる日数に関するよくある質問
ACH決済は当日に記帳されますか?
ACH決済は通常、当日には記帳されません。処理にタイムラグがあり、受取人への入金はクレジット送金であれば多くの場合翌営業日、ACHデビットは最大3営業日かかることがあります。
なぜACH送金は即座ではないのですか?
ACH送金は都度処理ではなく、1日を通じてバッチ処理されます。さらに、受取側の銀行が資金の裏付けを確認するため、入金の前に資金を保留する場合があります。これらの理由から、完了までの所要時間は平均1〜3営業日となります。
ACH送金は本当に処理に3日かかりますか?
ACH送金が常に処理に3営業日かかるわけではありません。一部の銀行では当日ACH決済を提供しています。当日処理があなたの事業で利用可能かどうか(およびその費用)は、銀行のポリシーによって異なります。詳細については、金融機関にお問い合わせください。
ACH決済を高速化できますか?
当日送金を依頼し、できるだけ早い時間に送金リクエストを提出することで、処理を早められます。即時の送金が必要な場合は、ACHではなく電信送金の実行について銀行に相談してください。電信送金は通常ACHより高コストですが、多くの場合24時間以内に処理されます。
ACHはすぐに利用可能ですか?
ACH決済はすぐには利用できませんが、第三者プロバイダー(Venmoなど)を使えば、資金を即座に送金できる場合があります。
5日間ACHルールとは何ですか?
「5日間ACHルール」とは、発信者または発信預金金融機関(ODFI)が、決済日から5営業日以内に受信預金金融機関(RDFI)へ取消を送信しなければならないとする規定です。
他人の銀行口座にACH送金できますか?
他人の銀行口座へACH送金することは可能です。ただし、即時送金ではない点に注意が必要です。すぐに資金を送りたい場合は、PayPalなどの第三者サービスの利用を検討してください。





