緻密に考えられたECサイトのUX(ユーザーエクスペリエンス)デザインは、顧客に優れた購入体験を提供することで、商品購入を後押ししたり、信頼感を与えたりすることができます。商品やブランドに興味を持ってくれた顧客が、eコマースサイトをスムーズに回遊できるようにするだけでなく、購入手続きも簡単に済ませられるよう動線を工夫することで、売上を増やすことにつながります。
この記事では、eコマースサイトのUXデザインとは何か、その重要性、優れたUXのECサイトを構築するポイント、改善点の見つけ方や改善方法について解説していきます。
ECサイトのUXデザインとは?

ECサイトのUXデザインとは、オンラインストアを訪問した人が、ページ閲覧や商品購入などを通して快適な体験を得られるよう、サイトをデザインすることです。ブログやホームページなどの一般的な情報提供サイトとは異なり、ECサイトでは商品の検索や決済手続き、配送先入力といったいくつかの操作が必要になります。そのため、サイト訪問者にとって優れた顧客体験を提供する手段のひとつとして、UXデザインを工夫したECサイトを構築することが重要です。
ECサイトのUXデザインにおいて、考慮すべき要素は主に以下の通りです。
- サイトスピード:サイトの読み込み速度が遅いと、訪問者がサイトから離脱してしまう原因になります。さらに、コンバージョン率やSEO順位の低下にもつながります。
- ナビゲーションメニュー:訪問者が商品や必要な情報に簡単にたどり着けるよう、わかりやすいナビゲーションメニューを考える必要があります。
- アクセシビリティ:視認性や操作性が良いというだけでなく、どのデバイスからでも快適に使えるデザインを心がけましょう。
- CTA(コール・トゥ・アクション):行動を促すリンクやボタンを工夫し、訪問者が迷わず商品購入や問い合わせができるようにします。
- モバイルフレンドリー:スマホやタブレットからでも円滑に操作ができるよう、フォントやボタンサイズ、余白の調整を行います。
- コピーライティング:企業や商品の特徴がわかりやすく、訪問者が必要な情報を見つけやすくするためにも、コピーライティングは重要です。ECサイト全体を通して一貫性が出るよう、ブランドボイスを定義しておきましょう。
- 画像:商品の特徴がわかる画像を使用するだけでなく、使用シーンがわかるように工夫したり、サイトスピードが遅くならないよう画像最適化も行います。
- 検索機能:精度が高く使いやすい検索機能を採用することで、ECサイトの利便性向上に役立ちます。フィルタリングやオートコンプリートなどさまざまな機能を実装することもできます。
- 決済方法:ターゲット層がよく利用する決済方法を導入することで、購入手続きを円滑に完了してもらえるようになります。また複数の決済方法に対応することで、離脱を防ぐことにもつながるため、決済代行サービスの導入も検討しましょう。
ECサイトにおけるUXの重要性

顧客満足度向上につながる
よく考えられたUXを持つECサイトは、顧客満足度が高い傾向にあります。情報がわかりやすく、購入までの動線がスムーズだと、顧客は「購入しやすいECサイトだった」と感じ、リピーター獲得にもつながるでしょう。
文字の大きさや色使い、論理的な順序での構成といった視覚的要素も重要です。直感的に操作できるわかりやすいサイトは、訪問者に安心感を与えることにもつながります。反対に、商品検索のしにくさや商品の詳細などの必要な情報の見つけにくさ、注文確定までに少しでも複雑さを感じてしまうと、訪問者がサイトから離れるきっかけとなってしまいます。直感的な操作で購入手続きまで完了できるUXデザインを心がければ、売上向上や顧客の定着につながります。
SEO対策になる
優れたUXのECサイトは、サイト訪問者の滞在時間が長くなる傾向にあり、回遊率も上がりやすいことからSEOにも効果的です。
SEO対策において、訪問者のニーズに応えているかどうか、有益な情報を提供できているかどうか、は重要なポイントです。他のECサイトとの差別化を図るためにも、有益な情報を提供することで、検索エンジンからの評価が高くなる傾向にあります。さらに、必要な情報が見つけやすいサイトであると認識されれば、訪問者はサイトのさまざまなページを見に行く可能性が高くなります。これにより、サイトへの滞在時間が長くなり、回遊率も向上します。
売上アップにつながる
UXデザインの改善により、商品の売上アップが期待できます。ECサイトでの商品購入経験のある消費者は多く、特に競合他社の多い業界の場合には、商品やサービスそのものだけでなく、顧客体験そのものの差別化を図ることが重要です。どんなに優れた商品を扱っていても、購入までの動線が長かったり、必要な情報が見つけにくかったりすると、サイトの離脱率を上げてしまいます。UXが購買障壁とならないよう、検証を繰り返してより良いUX実現を目指しましょう。
ブランディング効果が得られる
売れるECサイトのデザインにおいても、ブランドイメージにあったUXは重要な要素の一つです。ブランディングはロゴマークやブランドストーリー、ウェブサイトのデザインといったブランドアイデンティティにとどまらず、これらの要素をどのようにUXデザインに組み込んでいくかも含まれます。ECサイトの各ページにブランドアイデンティティを反映させ、一貫した印象を与えることで、ブランドとしての認知度を高めて安心感を与えるだけでなく、リピーターの獲得も期待できるでしょう。
優れたUXのECサイトを構築するプロセス

1. 目的・目標を明確にする
ECサイトのUXデザインを通して実現したい目的や目標を明確化します。より多くの問い合わせを増やしたいのか、認知度を高めることを目標としているのか、売上を大きく伸ばしたいのかをはっきりさせ、KGI(最終目標)やKPI(中間目標)を設定します。KPIは測定可能な数値として設定する必要があり、以下のように施策ごとに具体的に設定を行うと良いでしょう。
- 販売数:例)月間10%増加
- 売上額:例)月間5%増加
- 問い合わせ件数:例)月間100件以上
- 顧客満足度アンケートの評価:例)5段階評価で4以上
- リピーター顧客数:例)月間5%増加
2. ユーザーインタビューを行う
すでにサイトを使用したことがあるユーザーや、ターゲット層、潜在顧客を中心にユーザーインタビューを行います。ユーザーインタビューでは、ユーザーが抱える課題や行動パターン、思考、価値観などを理解することで、よりユーザーに寄り添ったUXを提供できるようになります。ユーザーインタビューは主に以下の3つに大別されます。
- 構造化インタビュー:一問一答形式の質問リストを作成し、ユーザーに回答を依頼します。
- 半構造化インタビュー:基本的には一問一答式の質問リストを用意しますが、臨機応変に話題を深堀りしたり、別の質問を追加したりします。ユーザーの深層心理や行動などを知りたい場合に有効です。
- 非構造化インタビュー:事前に質問を準備せず、対話型で進めるインタビューです。ユーザーが自由に話せる環境を作り、会話を通して話を引き出す能力が必要となります。
3. ペルソナ設定を行う
ユーザーについてより詳しく知るために、ペルソナ設定を行います。ユーザーの具体像を作り上げることでニーズや悩みを明らかにすることができ、マーケティング戦略を最適化できるようになります。また、ターゲット像を明確に定義することでチーム内で共通の認識を持てるようになり、企画や戦略の一貫性が保てます。
4. カスタマージャーニーマップを作成する
ユーザーが商品を見つけて購入するまでの過程を可視化したカスタマージャーニーマップを作成します。カスタマージャーニーマップを構成する要素は以下の通りです。
- 購入者のペルソナ
- シナリオ
- 購入に至るまでのステップ
- タッチポイント
- ユーザーの感情
- 改善点
前述のペルソナを元にカスタマージャーニーマップを作ることで、より具体的なユーザーの行動や感情、思考を把握することができるようになります。また、時系列で整理することで、購入障壁となり得る問題点や、反対に購入の後押しとなり得る要素などを探ることもできるでしょう。
5. ECサイトの設計と実装を行う
ユーザーが円滑に商品を購入できるような動線を意識しながら、ECサイトの設計と実装を行います。理想的な購入までの流れを描いていても、技術的に実装が難しい場合やコストがかさむといったことも考えられます。そのため、設計と実装段階で見つかる課題や問題点を見逃さないよう、プロトタイプを作成することが重要です。
6. テスト・改善する
UXにこだわったECサイトのプロトタイプができあがったら、テストを行いましょう。ユーザーになったつもりで実際のサイトを使い、主に以下の点に問題がないかを確認します。
- 文字の大きさや色は読みやすく閲覧に問題はないか
- 画像やイラスト、図の位置は最適か、文字や他の要素に被ったりしていないか
- リンクは正常に機能するか
- 問い合わせフォームの入力は快適に行えるか
- 購入までの手続きは円滑か
- ページの読み込み速度は遅くないか
- 快適に商品検索が行えるか
- パソコンやタブレット、スマホなどさまざまなデバイスでも表示崩れがないか
社内でのテストだけでなく、ユーザーやリピーター、潜在顧客にテストを依頼することで、より具体的な課題が見つかる可能性もあります。
テスト後は、PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を回し、問題点や課題を減らしていくことが重要です。一度サイトをリリースしたら終了ではなく、より良いECサイトを作るために、定期的に改善策を講じていきます。
ECサイトのUXデザインにおける改善点の見つけ方

ユーザーの意見を聞く
実際にECサイトを利用した人の意見を聞き、ページ間の移動はスムーズだったか、困惑した点や困った点、不安になったことはないか等、ヒアリングをします。内部テストで気付けなかった課題が浮上する可能性があります。また、ECサイト運営側が購入障壁にはならないだろうと思っていた要素が、実際には購入を妨げる大きな要因となっているケースも少なくありません。できるだけ多くのユーザーの意見をヒアリングし、データを集めて分析してみましょう。
カスタマージャーニーマップを見直す
カスタマージャーニーマップは定期的に見直していく必要があります。市場やトレンドの変化とともに消費者の行動や需要も変化することから、時代の変化に合わせてカスタマージャーニーマップも更新していきます。また、現状のカスタマージャーニーマップだけでなく、未来を見据えたカスタマージャーニーマップやペルソナ別カスタマージャーニーマップも併せて作成することで、ECサイトのUX改善にも役立ちます。
UXハニカム構造に沿って課題を洗い出す
ユーザー体験に着目し、改善点を洗い出す方法として、「UXハニカム構造」というフレームワークがあります。これに沿って、ECサイトの課題を洗い出しましょう。UXの7つの構成要素は以下の通りです。
- 有用性(Useful):需要や必要性があるか
- 使いやすさ(Usable):サイトそのものが使いやすいか
- 好ましさ(Desirable):デザインはユーザーを惹きつけ、好印象を与えるか
- 見つけやすさ(Findable):必要な情報やコンテンツが見つけやすいか
- アクセス性(Accessible):アクセシビリティに配慮しているか
- 信頼性(Credible):記載情報は信憑性があるか、信頼できるサイトか
- 価値(Valuable):上記6つの要素を全て満たし、価値があるUXを顧客に提供できるようになっているか
このように、「価値」を中心としたフレームワークに沿ってECサイトを評価することで、ECサイト利用者の立場に立ってECサイトの状態を客観的に評価をすることができ、具体的な課題を見つけることにつながるでしょう。
分析ツールを活用する
アクセス解析ツール
Google(グーグル)アナリティクスやSEO対策ツールのアクセス解析を活用して、ECサイトに関する幅広いデータを取得することができます。アクセス数やエンゲージメント率だけでなく、ページ毎の離脱率やカゴ落ち率など、データを元に分析を行うことで、問題のあるページや改善すべき箇所を特定できるようになります。
ヒートマップ
ヒートマップでは、ユーザーの行動が色の濃淡でわかりやすく表現されています。。ページのどの部分が読まれているのか、どの部分で離脱するのか、どこがクリックされているかが可視化されるため、想定と異なった行動が起こっている場合や、離脱率が高い理由を探るために役立ちます。Shopify(ショッピファイ)アプリにも、ヒートマップが使えるツールがあります。
- Clarity(クラリティ)
- MIDA(英語)
- Peek!(英語)
ECサイトのUXデザイン失敗事例

見た目のデザインにこだわりすぎてしまう
ECサイトをデザインする際、見た目のデザインにこだわりすぎてしまって機能性が落ちる場合があります。よくある失敗例として挙げられるのが、次のようなケースです。
- 装飾やアニメーション、色使いなど見た目のデザインにこだわりすぎて、CTAが目立たなくなる
- 情報が見つけにくくなる
- 動画やアニメーションが多く、サイトの読み込みスピードが遅くなる
インパクトに残るECサイトであったとしても、操作しにくい場合や購入までの動線が長い場合、ユーザーは途中でサイトを離れてしまう可能性があります。見た目のデザイン性も重要な要素の一つですが、優先すべきは機能性です。快適に回遊しやすく、円滑な購入手続きができるECサイトにすることを第一に考えましょう。
コスト削減のため費用を抑えたが効果が得られなかった
事業を始めたばかりの企業にとって、十分な費用を確保できず、UXデザイン改善の効果が得られないというケースがあります。コスト削減により、十分なリサーチや検証が行われていない、問題点を正確に把握できず、利便性向上が実現しない場合があります。結果として、再度、UXデザインの見直しを強いられる可能性もあるでしょう。コスト削減のために考えられるトラブルには、以下のようなものがあります。
- SEOに強いページのURLを消してしまった
- サイト構造が複雑化してしまい、商品が探しにくくなった
- 決済方法が少なく、カゴ落ちが多い
- サイトスピード改善が行えず、離脱率が下がらない
- ECサイト業務に関する手間が増え、必要人員が増えてしまった
- エラーやトラブルが頻発し、修正や改善のためのコストがかかるようになった
短期的なコスト削減ばかりに目を向けてしまうと、長期的には修正費用や改善のためにコストがかさんでしまう可能性もあります。そのため、ECサイトのUXデザインにおける目標は何かを明確化し、長期的なコストも視野に入れる必要があるでしょう。
外部企業に依頼したが、その後社内で運用できなかった
外部の専門企業にECサイト構築やUX改善を依頼したものの、その後、社内で運用する際、うまくできなかったというトラブルも珍しくありません。特に発注数の多いECサイトの場合、膨大な数の注文を処理する必要があります。しかし、外部企業任せでECサイトを制作すると、社内の業務フローとは合わないサイトになることがあります。その結果、注文処理やECサイト管理に莫大な時間と人件費がかかってしまい、ECサイトそのものを大幅に改善しなければならなくなることも考えられます。そのため、外部企業にECサイト制作やUX改善を依頼する場合には、現場のスタッフの利便性や業務効率化にも目を向けた対応を相談することをおすすめします。
まとめ
ECサイトのUXデザインは、ユーザーがオンラインストアを通して得られる体験のことです。ホームページやブログなどとは異なり、商品検索や決済手続き、配送先入力などの手続きが必要となります。快適なUXを提供するためには、ストレスのないサイトスピードやわかりやすいナビゲーションメニュー、コピーライティング、画像最適化など細部に渡ってユーザーの利便性を追及することが重要です。
ECサイトのUXデザイン改善は、顧客満足度向上につながるだけでなく、SEO対策としても効果が期待できます。さらに、操作性が良くなることで、売上アップやブランディング効果も期待できるでしょう。優れたUXのECサイトを構築するために、まず目的や目標を明確化し、ユーザーインタビューやペルソナ設定、カスタマージャーニーマップ作成を行い、その後、サイトの設計と実装に着手しましょう。また、テストや改善を繰り返すことも忘れずに行いましょう。
今回は、UXデザインにおける改善点の見つけ方だけでなく、よくある失敗事例も取り上げています。ECサイトのデザイン事例も参考にしながら、ECサイトのUXデザインを改善し、目標達成を目指しましょう。
ECサイトのUXデザイン戦略に関してよくある質問質問
ECサイトのUIUXデザインとは?
ECサイトのUIUXデザインとは、「見た目のデザイン」と「操作した際の顧客体験」を最適化する試みのことです。UIはユーザーインターフェースとも呼ばれ、ECサイトを操作する際にユーザーが目にする画面全体を指します。UXはユーザーエクスペリエンスと呼ばれ、ユーザーが購入手続きを完了させるまでの全ての体験のことです。UIUXデザインにこだわったECサイトを構築することで、高い売上やコンバージョン率を実現し、顧客満足度向上や認知度向上といったメリットが得られます。
ECサイトにおいてUXが重要な理由は?
ECサイトにおいてUXが重要な理由は、顧客満足度向上やSEO対策、売上アップに有効であること、さらにブランディング効果が得られるからです。
UXの5段階モデルとは?
UXの5段階モデルとは、戦略、要件、構造、骨格、表層の5段階で考えるモデルです。抽象的な要素からより具体的な要素へと段階を進めていくモデルで、目的からずれることなく、効率的にUXデザインができるようになります。
UXハニカム構造とは?
UXハニカム構造とは、UXの構成要素である以下の7つに着目し、改善点を洗い出すフレームワークです。
- 有用性(Useful)
- 使いやすさ(Usable)
- 好ましさ(Desirable)
- 見つけやすさ(Findable)
- アクセス性(Accessible)
- 信頼性(Credible)
- 価値(Valuable)
UXデザインの成功事例は?
- ZOZOTOWN(ゾゾタウン):豊富な数のファッションアイテムを扱うECサイトです。すぐ購入したいというユーザーのニーズに対応するために、サイズ・色ごとの在庫がわかりやすく表示されます。即日配送が可能かどうかや、ラッピングができるかどうかが一目でわかる工夫がされています。
- Airbnb(エアービーアンドビー):民泊プラットフォームのAirbnbは、空き部屋を貸したい人と宿泊先を探す人をつなぐサービスです。家主が在宅している状態で宿泊するケースもあるため、安全面が気になる利用者のために、レビューを掲載したり、ホストの写真やコメントを紹介したりできるようになっています。チャット機能を使って直接やり取りができることも、安心して利用してもらうための施策の一つです。
文:Masumi Murakami





