現在、成功しているブランドは、多くの競合がいるマーケットのなかでも独自の存在感を放っています。その背景にあるのが、ブランドの価値観や特徴を明確に示すブランドアイデンティティです。
この記事では、ブランドアイデンティティの定義や構成要素、具体的なアプローチ方法などをわかりやすく解説します。また、ブランドアイデンティティに成功している企業も合わせて紹介します。
ブランド構築に悩んでいる方や、ブランドの魅力をより明確に伝えたい方に役立つ内容です。ぜひ、参考にしてください。
ブランドアイデンティティとは

ブランドアイデンティティとは、ブランドや商品・サービスが顧客にどのように認識されたいか、また、その個性・価値・特徴をどのように伝えたいかを示す概念です。ロゴやカラーといったビジュアル要素を通じてブランドの世界観を表現し、競合との差別化を明確にする役割を持ちます。さらに、一貫したブランドメッセージを設定することで、マーケティング施策や評価の際の判断基準として活用でき、社内外に統一感のあるブランドとして確立することが可能になります。
ブランドアイデンティティとブランドイメージの違い
ブランドアイデンティティは、ブランド側が顧客にどのように認識されたいかを意図して発信するブランドの理想像です。一方で、ブランドイメージは顧客が実際にブランドに対して抱く印象を指します。ブランドアイデンティティとブランドイメージを一致させるためには、ロゴやメッセージ、広告、サービス体験など、すべての接点で一貫したブランディングを行うことが重要です。
ブランドアイデンティティが重要な理由

一貫性のあるブランド戦略が可能になる
ブランドの理念やメッセージを明確にすることで、ブランド戦略全体に一貫性を持たせ、広告・商品開発・採用など、あらゆる施策を統合的に進めることができます。さらに、自社だけが提供できる価値(USP)を明確にすることで、顧客に対して独自のブランドの魅力を効果的に伝えられます。結果として、社内外でぶれないブランド像を浸透させることが可能になります。
競合との差別化ができる
明確なブランドアイデンティティは、ブランドの世界観や価値観による差別化の基盤となります。ブランドの魅力を明確に言語化・視覚化することで、他社との違いを効果的に打ち出し、顧客にブランドの価値を一貫して伝えることができます。
組織の一体感を高められる
従業員がブランドの理念を理解し共有することで、日常の業務判断や顧客対応に一貫性が生まれます。さらに、入社時から変わらないブランドの魅力や価値を感じられる環境は、従業員の満足度を高め、業務への意欲や効率の向上にもつながります。このように社内全体でブランドを支える意識が高まることで、組織としての一体感が高まります。
ブランドアイデンティティの構成要素

1. フィロソフィー
フィロソフィーとは、ブランドアイデンティティの基盤となる考え方であり、「ミッション」「ビジョン」「価値観」の3つの要素で構成されます。
- ミッション:ブランドが社会や顧客に対して目的や存在意義を示すもの
- ビジョン:そのミッションを実現するための方向性や理想の姿を描いたもの
- 価値観:ブランドや従業員が意思決定や行動を行う際の判断基準となり、ブランディングの指針となるもの
2. ベネフィット
ベネフィットとは、ブランドが顧客に価値提供することで得られる利益や満足を指す概念です。つまり、顧客がそのブランドを通じてどのような価値やメリットを受け取れるのかを示します。
ベネフィットは大きく次の3種類に分けられます。
- 機能的ベネフィット:商品やサービスを利用することで得られる実用的なメリット(例:時間短縮、利便性向上など)
- 自己表現的ベネフィット:ブランドを所有・利用することで自分らしさを表現できる(例:ブランドを身につけることでスマートな自分や理想の自分を演出できる)
- 情緒的ベネフィット:商品やサービスを所有・利用することでポジティブな感情になる(例:楽しい、面白い、ワクワクするなど)
これらのベネフィットは顧客があなたのブランドを選ぶ際の大きな要因となります。とくに、リピート購入者の獲得には、ブランドから得られる特別な体験や満足度が重要です。
3. 属性
属性とは、ブランドの個性や特徴を示す客観的な要素であり、それらが顧客にどのように認識されるかを形づくるものです。
例えば、洋服を着るだけで疲労を回復できることをベネフィットとして訴求する場合、その効果を裏付ける客観的な理由が必要です。
- 特殊繊維を利用している
- 生地やパターン設計に独自の工夫がある
このようにブランドの属性を明確に示すことで、顧客に信頼感や安心感を与え、結果的に購買決定やブランド選択につながります。
4. パーソナリティ
パーソナリティは、ブランドに人間のような個性を持たせることを指します。ブランドが独自の個性や特性を持つことで、顧客の記憶に残りやすくなり、親近感や信頼感を育むことが期待されます。
パーソナリティを設計する際は、顧客から「どのようなブランドとして見られたいか」というブランドの人格イメージを明確にすることが重要です。
5. シンボルやデザイン
シンボルやデザインは、ブランドを視覚的に表現する要素です。ロゴ、カラー、フォントなどのビジュアルは、ブランドの世界観や価値観を直感的に伝える役割を果たします。
これらの視覚要素は、顧客がブランドを識別し、記憶に残すうえで最も重要なポイントです。一貫したデザインを通じて、ブランドの世界観を明確に表現し、印象的で信頼感のあるブランドイメージを築くことができるでしょう。
ブランドアイデンティティのアプローチ方法

1. ロゴ
ロゴは、ブランドアイデンティティを視覚的に表現する最も象徴的な要素の一つです。しっかり作り込まれたロゴは、数十年にわたってブランドの象徴として機能し、言語や文化の壁を超えて認識されるほどの力を持ちます。
例えば、「NIKE」という文字を見なくても、スウッシュマークを見るだけでNIKEと認識することができます。ロゴは基本的にブランドの短縮形であり、そのロゴデザインには多くの時間と労力がかかります。
ロゴには主に「ピクトリアルマーク(シンボルロゴ)」と「ワードマーク(文字ロゴ)」の2種類があります。シンボルと文字ロゴを組み合わせたロゴを採用することで、視覚的な印象とブランド名の認知の両方を効果的に伝えることができます。
2. カラー
色はブランドの重要な要素であり、競合他社との視覚的区別に役立ちます。また、色彩心理学によって顧客の認識や意思決定にも影響を与えることがあります。赤やピンクは「愛」、黄色やオレンジは「喜び」と関連付けられます。
3. タイポグラフィ
ブランドのタイポグラフィ(書体)は、文字の形やデザインを通じてブランドのトーンや世界観を視覚的に表現する要素です。例えば、丸みのある書体は柔らかく親しみやすい印象を、太く存在感のある書体は力強さや安定感を与えます。
また、ウェブサイトや広告など、あらゆる媒体でフォントを統一することで、ブランドとしての一貫性や信頼感を形成できます。文字のデザイン性だけでなく、読みやすさや伝わりやすさも考慮することで、より洗練されたブランド表現が可能になります。
4. 声・伝え方
声や伝え方(口調)は、ブランドの個性や姿勢を言葉遣いで表現する方法です。文章の口調や語彙の選び方によって、読者がブランドに抱く印象が大きく変わります。
例えば、同じ意味の「尻」を「お尻」と表現することで、柔らかく親しみやすい印象に変わります。このような言葉選びが、ブランドの雰囲気や伝わり方に影響を与えます。
5. ビジュアルトーン・スタイル・サウンド
ビジュアルトーンやスタイルは、写真や図、イラストなどの視覚要素を通じて、ブランドの世界観を構築する手法です。トーンは「感情の温度」を、スタイルは「表現の型」を意味し、この2つを統一することでブランドの印象が安定します。
また、音楽や効果音などのサウンド表現もブランドの印象を構築するために重要です。例えば、日立製作所の「この木なんの木」のCMは、大樹の映像と穏やかなメロディで多くの人の記憶に残り、ブランドの定着に成功しています。
このように、ビジュアルやサウンドの一貫した設計は、顧客の心に深く残るブランド体験を生み出すことができます。
ブランドアイデンティティのフレームワーク

ブランドアイデンティティの作り方としてブランド・アイデンティティ・プリズムがあります。これは、ブランドを6つの側面から整理し、その特徴や個性を体系的に把握できるフレームワークです。
- Physique(フィジーク):ロゴやテキストジングル(音)など視覚・聴覚の側面からアプローチする物理的な特徴の作成
- Personality(パーソナリティ):ブランドの人格的な個性を示す側面。言葉遣い、トーン、カラーなどによってブランドのキャラクターを形成
- Culture(カルチャー):ブランドの伝統や業績、社風などを反映する要素
- Relationship(リレーションシップ):ブランドと顧客との間の関係性の方向性の定義
- Reflection(リフレクション):ターゲット顧客の年齢や性格、家族構成などのデモグラフィック特性から、価値観や趣味などのサイコグラフィック特性までを考慮した顧客属性
- Self image(セルフイメージ):顧客がブランドを通じて描く、理想の自分像や憧れの姿
ブランドアイデンティティの成功事例

スターバックス
スターバックスのブランドアイデンティティは、「サードプレイス(Third Place)」というコンセプトに基づいています。これは、家庭(ファーストプレイス)や職場(セカンドプレイス)に次ぐ、第3の居心地のよい空間を提供するという考え方です。
実際の店舗では、従業員が来店時に「いらっしゃいませ」ではなく、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と声をかけ、顧客一人ひとりに寄り添うような自然なコミュニケーションを心がけています。さらに、店内の照明・音楽・香り・インテリアなども統一された空間演出として、リラックスできる環境を提供しています。
このように、スターバックスはすべての店舗で理念(サードプレイス)を一貫しているため、ビジネスパーソンから幅広い層に利用される人気店舗へと成長しました。
ユニクロ
ユニクロは創業当初から一貫して「MADE FOR ALL」というブランドアイデンティティを掲げ、事業を展開しています。この理念は、あらゆる人々の暮らしをより快適にする日常着「LifeWear(ライフウェア)」の根幹にも息づいています。
さらに、ユニクロは服づくりを通じて社会課題の解決にも取り組んでおり、SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた活動にも積極的です。このように、新しい挑戦を行う際もブランドアイデンティティを軸に据えることで、イメージを損なうことなく成長を続けている点がユニクロの大きな強みです。
まとめ
ブランドアイデンティティは、顧客にブランドや商品・サービスを理想的な形で理解してもらうために、個性や価値観を明確に示すことです。そのためには、フィロソフィーやベネフィット、パーソナリティなどの構成要素を整理し、ブランドの核となるメッセージを一貫して発信することが重要です。これにより、一貫性のあるブランド戦略を構築し、競合との差別化を図ることができます。さらに、従業員が共通の価値観を持つことで、組織全体の一体感やエンゲージメントも高められます。
また、社会や市場の変化が激しい現代において、明確なブランドアイデンティティを持つことは、顧客に選ばれ続けるための信頼の指標となります。長期的な成長とブランド価値の向上のために、一貫したブランドらしさを持続できるようにしていきましょう。
ブランドアイデンティティに関するよくある質問
ブランドアイデンティティは、競合他社との差別化に役に立つ?
ブランドアイデンティティは、ブランドの世界観や価値観を基盤に、競合他社との差別化を実現するための中核的な要素です。明確なアイデンティティを持つことで、顧客にブランド独自の魅力を伝えられます。
ブランドアイデンティティは時が経つにつれてアップデートや変更は可能?
ブランドアイデンティティは、ブランドの成長や市場変化に合わせてアップデートや変更が可能です。あらかじめスケール可能な設計にしておくことで、頻繁なリブランディングを回避しながら、必要に応じた更新ができます。
ブランドアイデンティティは、顧客ロイヤルティや信頼にどのような影響を与える?
ブランドアイデンティティを構築する際に気をつけることは?
ブランドアイデンティティを構築する際に気をつけることは、プロセスを急いで進めないようにすることです。一貫性のない画像やメッセージは避け、ブランドが表現したいことを反映したブランドアイデンティティを作成しましょう。
文:Momo Hidaka





